24 匠はいない
シャルたち西の森組が作業を続けている。
突然、シャルとノマが背筋を伸ばすと、互いに見つめ合った。
「聞こえた?」
「ええ。いい物件を見つけたので、マイダンジョンに集合と言ってましたねー」
シモベたちを見ると、何事もなく作業を続けている。彼らには聞こえなかったらしい。
「エレール、ドラン。デレクが呼んでいる。キリのいいところで、マイダンジョンに入ろう」
「「ハッ!」」
ノマが言うと、作業を放り出してやってきた。
「いや、やっている作業は終わらせてよ」
「「ハハッ!」」
デレクのシモベに対する気分が、ちょっぴり理解できたノマであった。
マイダンジョンに入ったノマたちを出迎えたのは、デレクたち東の平原組と二階建ての大きな建物だった。
「なんですか、これー」
「悪い。説明はあとで。ただ、ここで使うんで、掃除と必要であれば、修理を頼む」
そう言いながら、デレクたちは、ためてあった枝や丸太のうち、程度の悪いものを担いでいる。
〈肉体強化〉でもかけているのだろう。かなりの量を軽々と持っている。
「こいつは、使わせてもらう。慌ただしくて悪いけど、よろしくな」
一方的にまくし立てると、東の平原組は入口をつくって旧ダンジョンに戻っていった。
「なにあれ?」
「さー?」
ノマとシャルは顔を見合わせた。
「それにしても、大っきいねー」
マイダンジョンの中心に鎮座する建物を見上げて、シャルが感心する。
ダンジョンもだいぶ広くなったので、圧迫感があるわけではないのだが、逆に広い草原の中に、たった一つの建物なので目立ってはいた。
「大きいけど、なんか雑」
ノマは辛口だ。
確かに強度などには気を使っているようだが、あちこちがチグハグで、仕上げも粗い。
「確かにねー。よく言えば質実剛健。有り体に言えば適当?」
「少なくとも、ココアが生み出したものじゃないな」
そんな事を言い合いながら、入口の取っ手を引いた。
「建てつけ悪いなー。あ、扉とめているの蝶番じゃなくて革だ」
そっと中を覗き込むシャル。
「うっ」
声を上げ顔を顰めた。
建物の中は酷いものだった。
なにかの肉の食い散らかしや、酒らしい液体。食べることもなく撒き散らかされた、野菜や穀物の類。そして、なぜかコボルドの死体が数体。
「魔物に荒らされたんでしょうか」
エレールが状況を見て推測した。
「多分。幸い人はいなくて、食料だけ荒らされ、魔物同士で争いが起こった、てとこかな」
「でも、どこの建物でしょうねー。村の建物じゃないですし」
「まあ、詮索は後にして掃除しよう」
「そうですねー。腐り始める前に片付けますか」
「「ハハッ!」」
掃除自体は1時間程度で、片付いた。
汚れている1階の部屋数が少なく、効率的だったのと、ゴミの類は力素に変換して吸収させるという手間いらず掃除法のためだ。
「さて、仕上げはどうしますかねー」
腰に手を当て豊かな胸を強調するような格好で、シャルが考え込む。
「細かな隙間は塞ぐとして、1階の間取りだな」
ノマも腕組みをしながら、考えを巡らす。ちなみに、ノマの腕組みを邪魔するものは、特にない。
胸とか。
二人が悩んでいるのは、この建物の1階部分があまりに大雑把だからだ。
おそらく倉庫に使っていただろう細かな部屋以外は、間仕切りが一切ない。
所々に柱があるだけの一間なのだ。
「トイレすらないんだもんなー」
「いや、この大工の腕じゃ、匂いを閉じこめられず、凄い事になってたと思う。結果的に正解」
「なるほど」
シャルは顔を顰めながら、頷いた。トイレがあった場合の惨状を想像したのだろう。
「2階は、廊下挟んで5部屋。まあ、これはいいとして、1階を仕切るかどうか」
「マスターに、ご相談してからがよいのでは?」
エレールが控えめに言うと、シャルとノマは、軽く頷いた。
「そうしますか」
「うん。丸投げ、丸投げ」
悩むことを放棄した二人は、隙間などを塞ぐ作業に専念することにした。
といっても大工仕事をするわけではない。
魔力の増えた二人には、もっと簡単な手段があった。
直したい部分に手を当て、魔力を通して〈可塑〉を使う。そして、隙間を塞いだり、継ぎ目を消すのだ。魔力の使用量は馬鹿にならないが、時間もかからず、出来上がりも綺麗に仕上がる。
彼女たちは、4人がかりで建物を仕上げていった。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
次回はデレク視点に戻る予定です。




