23 ドワーフは木を切る
さて、同じ頃のシャル・ノマ組。
マイダンジョンでエルフの女性エレールとドワーフの男性ドランと合流して、サクッと西の森の前回撤退した場所にやってきた。
マイダンジョンから出るときには
「わたしたちが先に出て、安全を確保いたします。奥様方は、しばしお待ちを」
などと言われてご満悦である。
「奥様、か」
二人きりになって、ノマがポツリと呟いた。
右の口角が微かに上がっている。
「シモベも出来たし、その時は近いかもねー」
シャルも微笑みながら言った。
デレクが彼女たちに手を出さない最大の理由。妊娠による戦力の低下が、シモベによって補うことができる。
シモベの存在をどう村に説明するか、という問題があるものの、尖兵を引退する時まで待つしかなかった頃よりは、見通しは明るい。
シャルにしろノマにしろ、相手が二股をかける、ということにはあまり抵抗はなかった。
尖兵には女性もいるものの、比率で言えば圧倒的に男性が多い。当然、死亡数も男性が多い為、開拓村では、男女比がいびつになる。
一夫多妻も、さほど珍しいことではなかった。
西の森組の今回の目的は、3つ程あった。
一つ目は、シモベたちのレベル上げ。
二つ目は、西の森の木を伐採して、マイダンジョンで使う木材を採取すること。
最後に、似た目的ではあるが、マイダンジョンに植樹する若木を採取することである。
材木や若木の採取は、力素を消費すれば自力で産み出せるのだが「目の前に大量にあるものを、わざわざ産み出すのは勿体ない!」(ココア談)ということで、旧ダンジョンから輸入することが決定した。
という事で、ドランの手には斧が握られている。
「ドワーフに斧、似合い過ぎていて、怖いわー」
自分の胸の辺りまでの身長で、モジャモジャ頭のドワーフを見てシャルが言った。
ちなみに斧は村の鍛冶屋から、デレクが私物として買ったものだ。
エレールの弓も同様である。
渡すときはシモベたちが「御下賜の品」に感激して、涙を流していたので、デレクはドン引きしていた。
「森にエルフというのも、なかなか」
ノマの言う通り、森に佇む可憐なエルフというのも、実に絵になった。青味がかった金髪が、森に差し込む光のようだ。
「さてと、さっさと始めよう。ドランは伐採、エレールは植樹出来そうな若木を探して。レベルが低いんから、魔物には気をつけててね」
「「ハハッ」」
ノマの言葉に二人のシモベは、最敬礼で応えた。
ドランは、嬉々として斧を振りかぶって巨木を切り倒す。
倒した木は、枝を払ってマイダンジョンに放り込んだ。あまりまっすぐな木は多くないが、気にしない。最悪、吸収してしまえばいいのだ。
切り株の方はシャルかノマが〈軟泥〉の魔法で地面を柔らかくしてから引っこ抜く。
落とした枝も切り株も、マイダンジョンに回収している。力素に戻して吸収するか、乾燥させて燃料として使うのだ。
エレールは若木を見つけては、これも〈軟泥〉で丁寧に採取して、マイダンジョンに移植している。
シャルとノマは、シモベたちを手伝いながら、周囲警戒だ。音をガンガンたてているので、面白いように魔物が寄ってくるのだ。
魔物が来たら、作業を中止して全員で攻撃を行う。
そんな感じで、半日が経過した。
「デレクの指示で、間引きではなくて集中的に伐採しましたがー、どーするんでしょうねー」
伐採跡が、ちょっとした広場になっているのを見て、シャルは首を傾げた。
「広場というか、ちょっとした集落が作れそう」
「そーいえば、こっち側にも丸太を残しとけって言ってましたっけー?」
デレクの意図に想いを巡らせるシャルたちに対して、シモベたちは清々しいまでに迷いなく、主の指示をこなしている。
シャルたちが言わなければ、休憩もロクに取らなかったろう。
「これも課題の一つですねー」
シャルがシモベたちを見ながら呟くと、ノマも小さく頷いた。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
シャルとノマ視点はもう1話続きます。
ちなみにドワーフの名前をヨサークにしようかと一瞬思いましたが、耐えました。