22 奪取
なだらかに続く平地の中に一軒の家が建っていた。
思わずポールたちを見るが、あからさまに目をそらしている。
「材料運ぶだけで、大変だったろうに」
そう水を向けると、2人程が思わずといった感じで深く頷いた。
うん。馬鹿だね。
俺の視線で失策を悟ったのか、4人は天を仰いだ。
「あそこから木材を運んだのか」
右手に見えるちょっとした森を示した。
「ああ、2年掛かりでな」
観念したようにポールが言う。
2年とはまた、妙なところで気の長いことだ。
「最初はちょっとした、休憩小屋のつもりだったんだ」
その発想は間違ってない。
俺たちのマイダンジョンもそうだが、安心して休める場所があると、探索の効率が違う。
あくまで休憩に使うなら、だが。
その建物に近づくにつれ、俺は呆れるのを通り過ぎて感心すらしていた。
周囲を囲む柵と魔物避けの結界石、これは安心して休むためには必要不可欠だから、まあわかる。
だが、規模がでかい。
そりゃそうだろう。中にある建物がデカイのだ。
村にだってこれだけの規模の建物はない。しかも、総二階建てだ。
村長の家の倍はありそうに見える。
「探索に行くと称して、ここにこもっていたわけか」
「見える範囲の魔物は狩っていたさ」
不服そうなポールの言葉に、溜め息をつく。
出発前の村長の話と合わせると、こんな村に近い位置でこもっていて、通常の探索と同じくらい魔物が狩れるという事だ。
さらに奥の、本来の探索場所にはどれだけ魔物がはびこっていることか。
俺が、その事を言うと4人の顔色が真っ青になる。
村がゴブリンの群れに襲われた原因が、やっとわかったらしい。
探索と言いながら実際には、この建物でのんびり酒でも飲みながら過ごしていたのだろう。その結果が、ゴブリン襲来だ。
奇跡的に死者がいなかったから、村長も寛容だったが、本来なら死罪に問われてもおかしくない。
そんな話をすると、4人はその場に倒れ込みそうになっている。
「村長に感謝して、心を入れ替えるんだな」
「ああ」
4人は、壊れた人形のように首をカクカクとさせた。
建物の間近に来ると、いろいろと荒されている様子が見て取れた。
ゴブリンの群れは、ここにも来襲したらしい。
結界石も、万能じゃない。魔物の集団移動には、気休め程度の効果しかない。
人がおらず戦いが発生しなかったので、外見はさほどではないが、中は酷い事になっているだろう。
「結界石だけ回収して先に進んでいてくれ。俺は、中を確認してから後を追う」
「わかった。一人で大丈夫か?」
「ああ。それと念の為に言っておくけど、ここは焼くからね」
「だろうな」
肩を落として出発するポールたちを見送って、俺は建物に入る。
すでにゴブリンたちがいないのは、探知で確認済みだ。
中に入ると、思ったよりは荒れていない。保存していた食料を喰い散らかされている程度だ。さすがに家具の類はテーブルと椅子程度なので、がらんどうの部屋にゴミが散らかっているだけ、といった感じだ。
二階には登ってさえいない。
「階段を登るという、発想がなかったかな?」
「そうかもしれません」
後ろで声がした。
入ってきたイシュルだ。
「この建物をいただいてしまおう。できるか、ココア」
「簡単ですよ。マイダンジョンの真ん中でいいですね」
「それでいい。あとは、周りの柵を燃やして擬装工作だな」
「さすがに燃え跡が少ないでしょうから、西の森組から、適当に端材をもらってきます」
ヴァニラの案に頷いた
「そこら辺は任せた」
今や念話でシャルたちとも連絡を取り放題だ。いろいろと捗る。
「掃除が必要だが、こんな立派な拠点が手に入るとはね」
ポールたちの上前をはねるような感じになるが、まあここは有効利用させて頂こう。
読んでいただいてありがとうございます。
少しずつブックマークしていただいている方も増えてきて、嬉しい限りです。
次回は、シャルとノマ視点の話となる予定です。