20 後始末
結論から言うと村の損害、特に人的損害は驚くほど少なかった。
死者はなし。怪我人も魔法薬で治療できない者もいない。
完勝と言っていい。
もっとも村を襲う程に魔物が増えた、という事を村の首脳陣は深刻に捉えているらしい。
まあ、主要任務の一つに失敗したという事だもんね。
ゴブリンの死体についても、嬉しい誤算で大部分の死体をマイダンジョンに取り込むことができた。
村の外に大穴を掘って放り込めんだ死体を、夜の闇に乗じて掘り起こして取り込むという、墓荒らしのようなマネをすることになった。ココア曰く、こんな処理では瘴気化して魔物が増えるらしいので、まあ良かろうということで。
ちなみに掘り起こしには〈軟泥〉と〈抽出〉の魔法が大活躍した。簡単に言えば、地面を液状化して、死体を浮かべてから地面を戻して終了。
一番大変なのは、マイダンジョンに放り込む作業だった。
しかし、この〈軟泥〉。今まで使ってこなかったが、戦いで無限の可能性を秘めている気がする。
それと我々の目立ち具合だが、幸い心配したほどではなかった。
魔法の腕前が上がったなぁで終了である。
ちょっと拍子抜けしたぐらいだが、さすがに不審に思っている人もいる。
その筆頭である村長とオドさんが、俺たちの目の前にいる。
「東側の確認?」
村長の言葉をおうむ返しで聞き返した。
「そうだ。東の平原はガースのパーティの受け持ちだった。報告によれば異常なし。魔物の討伐数も、特に多くもなければ、少なくもない」
「それなのにあの来襲?」
ノマが言うと村長とオドさんが頷いた。
「我々は、ガースたちのパーティが、東の平原の探索をおざなりにしていたと疑っている。平原の端で、不自然にならない程度に魔物を狩って、奥に踏み込んでいないのではないか、とね」
「そして平原の奥では、ゴブリンが大発生していたとー」
「その通りだ」
「で、俺たちが呼ばれたわけは?東の平原に行けと言われりゃ行きますが、西の森はどうします?」
「東は引き続きガースがリーダーだったパーティに担当させるつもりだ。大発生しているにしろ、所詮ゴブリン。上位種が発生していなければ、普通の尖兵で十分だ」
(わー、フラグっぽ〜い)
村長の言葉に、ココアが言葉を被せた。
なんで嬉しそうなんだ。
(上位種が取り込めたら、ウマウマじゃないですか)
取り込む前に、倒さにゃいかんけどな!
「だとすると、余計に私たちが呼ばれた理由がわからないんだけど」
「連中に任せるにしても、今のままとはいかない。気合いを入れ直さないと」
「本当なら、俺がやるべきなんだろうが、この足だからな」
オドさんが、義足を指し示しながら言った。
「オドさんなら、俺たちに気合いを入れ直すなんて簡単でしょう」
お世話でもなんでもなく言う。俺の両親たちとパーティを組み、オーガの集団に遭遇した時に唯一生き残った人だ。
ダンジョンマスターになる前に1対1で戦えば、完敗していただろう。
「戦うだけならな。だが遠出するのはチトきつい」
ああ、実際に東の平原で討伐状況を確認し、気合いを入れ直すって話なのか。
「その間、西の森は?」
「それだ」
ノマの疑問に村長が頷いた。
「西の森の探索も欠かしたくない。魔物の深刻度も遥かに上だしな」
「とゆーことは?」
「二手に分かれてもらいたい」
という事で、二手に分かれました。
翌日から一時的に俺は東の平原に、シャルとノマは西の森を探索する。
ガースの時の轍を踏まないために、シャルとノマに追加人員はなし。そのかわり、あまり森の中に踏み込まない、という事になっている。
俺の方は、元ガースのパーティと一緒だ。ポールをはじめとする4人と東の平原に向かっている。
この4人の気合いを入れ直せって事なんだが、全員が俺より年上なんだよなぁ。