17 接敵
今回も3人称とガライ君視点です。
ゴブリンたちは、空堀の寸前までに迫っていた。
ユオルはオドと共に空堀の内側に作られた土塁の上から柵越に、その光景を眺めている。
その後ろ。土塁に身を隠すように待機しているのは、備兵の中で魔法を使える20名程と、弓矢を手にした者たちだ。
備兵といっても、村に残っていて戦える者の事なので、女子供に老人がかなりの割合を占める。
「いいか!魔法攻撃の第1波は、4人のみだ!そのかわり、魔力を惜まず最大火力で攻撃しろ!そのあとは後方で魔力回復に努める。いいか!」
オドが声を張り上げる。
「「「おおー!!」」」
「よし!攻撃開始!」
返事は4つの火球だった。
頭上に現れ、ゴブリンの群れ目掛け飛んで、爆発する。
それが数回続き、フラフラになった魔法使いたちが、仲間に付き添われて下がっていった。
「最初の一撃以外は、大して効いてないな」
ゴブリンたちを観察していたユオルが呟く。
最初の一撃こそ、密集したゴブリンの中に命中し10頭余りを屠ったが、それ以後は逃げ散ってしまい、さほど効果を上げなかった。
「逃げるなら、巣まで逃げればいいものを」
オドが言い、ユオルも頷いた。
混乱は見られるものの、ゴブリンの勢いは止まったように見えない。
「固まっているところに、第2波の魔法攻撃をするか?」
ユオルが尋ねたが、オドが首を横に振る。
「ここぞという時にとっておきましょう」
今は弓による攻撃か、空堀に落ちたゴブリンに対して熱湯を浴びせている程度だ。
ゴブリンからの攻撃も、投石程度で大したことはない。防御専門に割り振った魔法使いが、〈防壁〉を張っているのでなおさらだ。
膠着状態である。
「矢の数もある。こっちも投石に切り替えるか」
オドの言葉にユオルも同意した。
この膠着状態は、今しばらく続きそうだった。
◇◇◇
「俺たちの出番は、まだまだだ。今から緊張してると、本番までに潰れちまうぞ」
オレやエスタの様子を見て、髭面の男が笑った。名前は忘れたけど、ちょうど村に来ていた商隊の人だ。
この場には、商隊の人も含めて今東側で戦っている以外で、戦える人が40人程が集合している。
あとは幼児に、そのお母さんくらいだ。
「緊張なんかしてません」
エスタが胸を張って言ったが、声が震えていた。
エスタのところのおじさんおばさんは、魔法が使えるという事で、東側にいる。
「そうか!そりゃ大したもんだ」
髭面の人は豪快に笑って、エスタの頭を撫でた。
「注目」
いつの間にかやってきた先生が、西門の前に立っている。
「これより、我々は西門から出て北側へ迂回しゴブリンどもの横っ面に、一撃を加える」
「おいおい、野外決戦には早すぎないか。そんなに状況が悪いのか」
髭面の男が大声で言った。
「思ったよりゴブリンの数が多い。このまま尖兵の帰還を待っても、その前に防衛線を突破される可能性が高い」
「数は?」
「400で数えるのをやめた」
「ウヘェ」
「いいか。準備が出来次第、門を出て配置に着く。魔法の一斉攻撃を合図に突入だ。一度門から出たら、ゴブリンどもを一掃するまで、帰れないと思え!水と戦闘食を2食分持て。
それと腹の中のもんは、出しとけよ。漏らしながら戦うことになるぞ!」
先生の言葉に、全員がお付き合いで笑った。
言われた内容は、みんな準備を済ませてある。その場で、最後の確認をして準備完了だ。
西門から静かに出発する。
村内に残る、若いお母さんたちが跳ね橋を上げたあと、手を振って見送ってくれた。
「いいか、横隊を絶対に崩すな。崩せば死ぬぞ」
「短槍は突くな。上から叩き落とせ。突くと、次の一撃が遅くなる」
北側に回って接近しながら、先生は作戦や戦い方を言い続けた。
戦いの音が近づいてくると、それもやめて静かに忍びよる。
「すげえ」
それを見て思わず声が出た。
あわてて手で口を押さえたが、誰にも怒られなかった。たぶん、同じように、ゴブリンの群れに圧倒されたからだろう。
それは群というか、なんか巨大な塊とでも言うべきものだった。
数百のゴブリンが村めがけて襲いかかっている様子は、黒い川の流れのようにも見えた。
矢や石がゴブリンたちを倒してはいるが、流れを止める効果はない。
空堀にたどり着いたゴブリンたちは、熱湯や上からの槍の攻撃で防がれている。だけど、どんどんと死体が積み上がり、堀を埋めようとしていた。
「確かにこれは時間がないな」
髭面の男が先生に囁いた。
「だろ?」
そう答えると先生は、東門脇の見張り楼に向けて合図を送った。
見張りは、気づいたようだ。
「横隊を組め。見つからないように、そっとだぞ」
オレたちは10人づつの横隊を組んで、息を殺し伏せていた。
ゴブリンたちは、村の方に夢中になっていて、少しくらい音を立てても平気そうだけど、念のためだ。
そのまま、村からの魔法攻撃を待つ。
そして、見たことのない規模の火柱が、3本上がった。
「なんだありゃ」
「村からじゃない。南側だ」
みんなが静かにするのも忘れて、ささやき声をあげている。
オレたちだけじゃない。
ゴブリンたちも爆発の方向を見て、棒立ちになっている。
「好機だ!」
先生が声を押し殺しながら叫ぶという、器用な真似をした。
「接敵する!声を上げるなよ!」
先生は混乱しているゴブリンたちを見つめている。
「前進!」
読んでいただいてありがとうございます。
次回からデレク視点にもどります。