16 迎撃準備
今回はガースの弟ガライ君の一人称と三人称で語られます。
オレの唯一の肉親、ガース兄さんが、死んでしまって2日が過ぎた。
兄さんはその日のうちに、村の西のはずれにある墓地にうめられている。
村の弔いはすごくカンタンだ。
神官様の祈りと共にうめられて、それでおしまい。
立ち会う人もあまりいない。
それでも父さんと母さんの時は、オレたち兄弟以外に近所の人が出てくれた。
兄さんは、オレのほかは村長の奥さんが出てくれただけ。
尖兵仲間も誰も来なかった。
シャルさんやノマさんが来ないのはしょうがないけど、一緒にパーティを組んでた人たちも来ないのは、さすがに兄さんが、かわいそうに思える。
墓に花を供えると、先に供えられていた花があった。
たぶんデレクさんだ。デレクさんの両親のお墓にも、同じ花が供えられていた。
墓参りが終わると、跳ね橋を通って村に戻る。
お墓は村の堀の外に作られている。
大部分の畑もそうだけど、あまり堀の内側に作っても、広くなりすぎて守りにくくなるからだそうだ。
堀の内にあるのは、家と倉と井戸そして村共有の小さな畑だけ。その畑では、薬草類が育てられている。
「やあ、ガライ」
交換所の親父の息子、ポールが声をかけてきた。
ポールとは同じ年で、よく遊んだりする。
肉親のせいで微妙にみんなから敬遠されている、という共通点があるせいもある。
ポールのお母さんは、すごくキレイないい人なんだけどね。
「これから先生のところだろ、一緒に行こう」
ポールの言う先生っていうのは、オレたちに剣と魔法を教えてくれているオドさんだ。
元村一番の尖兵で、オーガと戦って右足を失い引退したらしい。
いまは子供の教育と備兵の指揮を任されている。
おっかないけど、面倒がらずに色々教えてくれるので、僕やポールは尊敬している。
「よし。揃ったな。始めるぞ」
村の中心、「階段」を取り囲むように作られた柵の外側、中央広場で先生の授業は行われる。
手には、指導用の木刀を持っている。
まわりにはオレたちを含めて10才か13才までの子供が15人ほど。男女は、だいたい半分ずつだ。
14才になったら尖兵になりたいヤツは、見習いとして実戦に出る。そして、他の仕事をするヤツは、それぞれの職の徒弟となる。
「さて、素振りからだ。全員武器をとれ」
先生の号令で、教練は始まった。
「つ、疲れた」
ポールがへたり込む。
素振りと型練習の合間に、先生との打ち込みをやるという、いつも通りの練習だけど、1時間をこえると疲れて倒れそうになる。
体力的には、素振りが一番キツイんだけど、先生との打ち込みは、緊張と痛さのため、疲れ具合としては比べものにならない。
一番面白くもあるんだけどね。
先生が言うには、打ち込みで指摘された欠点を型練習で、どうなおすかが強くなるのに重要だそうだ。
「よし!次はガライ」
「はい!」
練習用の小剣を構える。
先生は木刀だけど、俺たちの使うのは、刃引きしてあるものの鉄製の剣だ。
俺は先生の身体に当てられた事がないので、何製だろうが関係ないけどね。
右足が義足だなんて、全く関係なく動くんだもんな。
オレが、一歩前に出ようとした時、鐘の音が響き渡った。
鳴らし方からすると東門の見張り楼だ。
オレたちは一瞬、その意味が解らず棒立ちになった。
「魔物の大規模襲来だ。全員実戦の支度をして、ここに再集合だ」
「「はい!」」
そうだ。あれは魔物の襲来を知らせる鐘だ。
◇◇◇◇
「まさか東が溢れるとはな」
村長のユオルは、そう呟いた。
魔物が溢れるとすれば、強力な魔物が多く探査が進んでいない西の森から。
それが今までの判断であったし、その為に最精鋭であるデレクのパーティを当てていたのだ。
「西はガースたちが受け持ちだったな」
報告に来ていたオドが言う。
「何が言いたい?」
「村長が懸念している通りのことさ。果たしてガースたちは、真面目に探索していたのかってな」
オドの言葉にユオルは天を仰いだ。
そして、振り払うように首を振る。
「その詮索は、生き残ってからだな。状況は?」
「悪いが、最悪ってほどじゃない。
数は300くらい。先頭はあと5分くらいで、こっちに取り付く。種類は、ゴブリン単独」
「なるほど。数は多いが、最悪というほどではないな」
「畑に出ていた者は、全て収容済みで、跳ね橋も引き上げた」
「俺も外に出よう」
報告を聞き終わり、剣を持ってユオルは立ち上がった。
すでに鎧はつけている。
「尖兵たちは?」
歩きながら、オドは尋ねた。
「共鳴石はすでに鳴らした。だが、4層に向かわした連中は、広く分散しているはずだ。戻るのに、それなりにかかるだろう」
「西の森のデレクたちの方が、早い可能性があるか」
「ああ、あまり西の森の奥に入っているとも思えない。消耗して、すでに帰路についている可能性だってある」
ユオルの言うことは、過去のデレクたちに対しては正しい予想だった。
「半日だな」
デレクは呟いた。
「半日保たせれば、どちらかが戻ってくる」
読んで頂いてどうもありがとうございます。
村視点の話は、もう1話ほど続きます。
2019年1月5日:ガライの一人称を統一しました。オドが義足だという記述が抜けていたので、追加しました。