14 連戦
十分な昼休憩をとり、旧ダンジョンへと俺たちは戻った。
「さてと、もうちょっと奥へ入るか」
探査使いが増えたので、警戒も楽になった。主に俺が前方に注意して、後方をノマが受け持つ。
30分も歩かないうちに、右前方から近付いてくる4つの気配を感じた。
「デレク」
ノマも警戒の声を上げる。
相手も気がついたらしい。接近速度が上がり、明らかにこちらに向かってくる。
早い。ただ、少しジグザグに進んでいる。
俺たちは、木々の間が少し開けた場所に陣取った。
「壁、作る?」
ノマが聞いてきたが、首を振る。
「この動き。たぶん跳狼だ。そろそろくるぞ」
警戒している方向から微かな音がして、木々が揺れる。
木の幹を蹴って、翔ぶように接近する影が見えた。
間違いない、跳狼だ。
その名の通り、地を駆けることはなく跳ねるようにして高速で移動する。
特に森の中では、木々を踏み台にして縦横無尽に跳ね回る。
狼は獣だが、跳狼は立派な魔物だ。
顔も鋭く精悍な顔付きの狼と違って、幅の広い大きな口を持っている。どこか蛙っぽい顔だ。
10頭以上の群れになれば脅威だが、4頭程度ならどうにかなる。
なぜなら、
ギャヒーン
先陣を切って飛び込んできた跳狼が、軌道上に置いておいた短槍に突き刺さり絶命した。
そう。跳狼は最終的な襲撃経路が直線的になる。数が多ければともかく、単独の攻撃は簡単に見切れる。
そして数が多ければ、
ギャン!
何かがぶつかるような音と、跳狼の悲鳴が響いた。
ノマが張った〈防壁〉に2頭の跳狼がぶつかってきたのだ。
すでに致命傷だと思うが、ノマは手にしている杖でトドメを刺している。
残り一頭は、シャルがあっさり弓で仕留めた。
「オークと群れていたりすると厄介だけどー、単独だとこんなもんかな?」
手早く後始末をしながら、シャルが言った。
「そもそも、違う種類の魔物が群れるもんなの?」
「前回の平定軍の記録には、ゴブリンとコボルドの混合した群れと戦った記録があったな」
村の記録庫で読んだことを思い出して言う。
「それ、平定軍の規模が大き過ぎて、関係ない群れと同時に戦っただけじゃ」
「たぶんね」
「ココアちゃん、どうなのー?」
シャルが、正解を知っていそうな唯一の存在に尋ねた。
「ダンジョンマスターの設定次第ですけど、強い魔物が弱い魔物を従えるというのは、普通にあると思いますよ。もうちょっと、深い階層からが普通ですが」
「なるほど」
そう頷いた時、魔物を感知した。
「お、魔物を感知。かなり強力だな」
「こ、これがフラグ?!」
なんかココアが嬉しそうだ。
「数は1体」
「へし折られた〜」
がっかりしてるが、お前さん俺が感じている事は、全てわかるよね。魔物を感知した瞬間に、1頭ということは判ったろうに。
(やだなぁ、様式美って奴ですよ)
とりあえず、ココアに構っている暇はない。
(無視された?!)
「どうする、一度マイダンジョンに入って、休憩する?」
「ほとんど消耗はない。いけるでしょ」
「同じくー」
「了解。正面から来る。あと1分弱で接敵。いや気がついた。走って接近中!」
さっきの戦いの、血の匂いに気づいたな。
前方の木々が揺れる。パワー系か。
「ノマ!」「了解!」
ノマと声をかけあって、土魔法で空壕と土塁を作った。念のために土塁の規模は大き目だ。
「見えた。…トロルか!」
木々の間に見えたのは、身の丈2米50糎を超えるトロルだった。
凶暴にして高い再生力を持つトロルは、脅威的の一言に尽きる。
前々回のダンジョン平定軍が敗退したのは、2頭のトロルのせいだった。
「〈石筍〉!」
ノマが唱えると、トロルの前方の地面から尖った石柱が現れ、腹部を貫く。トロルは石柱に縫い付けられた形だ。
「〈石筍〉」「〈石筍〉」
俺とココアも唱える。
右後方から胸を、左後方から腰を貫いた。
「ガアッ!」
咆哮を上げるが、トロルはもう動けない。
棍棒を振りかざし、石柱を折ろうと試みる。
だが、その振り上げた右手首にシャルの矢が突き刺さる。
「ゴアァァ!」
棍棒を落としたトロルが、素手で自らを貫いている石柱を殴った。だが、いくら怪力でも、全く効果がない。
「ノマ!台を!」
そう叫んでシャルは、土塁から空壕を飛び越えトロルに迫っていった。
今年最後の投稿です。
本作の投稿を始めて、1ヶ月が経ちますが思っていたより多くの方々に読んでいただきました。
どうもありがとうございます。
正月も投稿ペースを崩さない予定ですので、宜しくお願いします。
それではみなさん、よいお年を。