130 激突その4
戦い始めて最初に思った事は、強くなっている、だった。
以前、一層で試合をした時のエルマーはレベル12、3というところだった筈だ。
今は確実にレベル15を超えている。
1、2層でたまに湧いてくる魔物を狩るだけでは、この短期間で上がるレベルではない。
4、5層で鍛えた訳でもないだろう。
だとすると。
「3層の民を殺してレベル上げか」
相変わらず視界の外から攻撃してくる剣を躱しながら、言った。
「100人も殺せば、結構レベルが上がったよ」
煽るようにエルマーが言う。
こちらの平静さを奪おうと言うのだろう。
しかも。
「1対1じゃないんだな」
後ろから襲ってきた兵士を見もせずに蹴り飛ばした。
俺、20人の兵に取り囲まれでいるんですが。
シャルとノマは、だいぶ離れた所で見物気分だし。3層兵たちからも離れた場所なので、孤立無縁と言って良い。
「卑怯とでも言うかい?」
周囲の兵の攻撃を巧みに利用しながら、エルマーは隙を狙ってくる。
「いや、別に。弱い者が周囲の状況を全て利用しようとするのは、当然の事だし」
実際、俺はそうやって戦ってきた。
つーか、今でも例え相手が弱くても、そう戦っている。戦う以上は楽に勝つ事は正義なのだ。
じゃあ、今の状態はなんなんだって事だが、それは向こうで見物しているシャルたちに聞いてほしい。
「ふざけた事を」
おっと、本心からの台詞だったが、エルマーの気に触ったらしい。
顔が赤くなっている。
煽るつもりが煽られるようじゃ、いかんな。
おっと。
今の攻撃ぱ、エグい角度だった。
攻撃の手順や緩急の付け方ぱ、本当に勉強になる。
だが、そろそろ終わりにしたい。
右手から攻撃してくる兵を切り捨てる。
その瞬間、切られた兵の陰から、エルマーの剣が襲ってきた。
それを踏み込んで短槍で弾く。エルマーの首を飛ばすつもりで左手のナイフを振った。
が、エルマーは後に飛んで避けた。
首筋に傷を負っているが、浅い。
いかんな。人間相手に戦い慣れてない分、トドメを刺す攻撃では、少し力むようだ。
普通の兵士ならともかく、対人特化のエルマーのような相手では、その隙は大きいようだ。
「なんなんだ、お前」
エルマーはエルマーで、ショックを受けているようだ。
「その速さ、人間か?」
すみません。人間じゃありません。ダンジョンマスターです。
心の中でそう言いながら追撃しようとしたが、エルマーは大きく後に下がっていく。
「貴様ら、撤収だ!逃げるぞ!」
そう一声叫ぶと、エルマーは一目散に逃げて行く。
生き残った兵も慌てて後を追っていった。
死者はもちろん負傷者も残した、ある意味見事な程の逃げっぷりだった。