128 激突その2
王国軍の混乱が収まってくると、戦いは矢戦へと移行した。
泥地と土塁に阻まれて接近できないので、矢や魔法で押し潰そうというわけだ。
判断としては悪くない。
なにしろ、圧倒的な物量差がある。
3層軍としては、土塁の防御力でかろうじて対抗できている状態だ。
土塁から頭を出すのも難しくなっている。
防御石もあるにはあるが、人数分配られているわけでもない。
このまま推移すれば、矢と魔力が尽きたところで、蹂躙されてしまうだろう。
そんな状況を上空の鳥のシモベによって確認した我々は、作戦の最終段階に移ることにした。
シャルに3層軍から見た右翼、ノマは左翼に移動してもらう。
俺は中央部担当だ。
残念ながら、先程見えていた指揮官とエルマーの姿は見失っている。
前線に移動したようだ。
「いくぞ」
念話で段取りを合わせて〈火球〉を放つ。
威力は調整して、超人的だが人を超えすぎない程度に。
レベル30程度を想定している。
10レベル以上がほぼいないであろう王国軍からすれば、十分人を超えすぎている気もするが。
その思いは、王国軍に突入して白兵戦を挑んだことで、さらに強くなる。
人間相手の乱戦は滅多にやらないので、気がつかなかったが彼我の差が大きすぎる。
四方を敵に囲まれて、一斉に攻撃されても、全く危険を感じないのだ。
攻撃の軌跡を把握して余裕を持って回避し、反撃する。
身体能力の向上もさることながら、反応の速さと判断の速さの向上が、物凄く効いている。
四方の敵の状態を全て把握しても、少し前の俺たちは判断が追いつかないで、慌てていただろう。
結果的に身体能力や魔法で無傷で切り抜けていただろうが、文字通り力技の結果だ。
だが、今は自分で得た情報だけでなく、シャルやノマ、シモベやコゴローンの情報も全て把握しながら、最小の動きで戦い、さらに優先して倒す敵を選別しながら、王国軍全体の動きを誘導しようとすらしている。
一際体格の良い敵兵の胸を短槍で貫き、さらに尽き飛ばして3、4人を巻き込む。
「ば、化け物だ」
「お、落ち着け!一気に取り囲むんだ!」
「さっきからやってる」
俺の周りから王国兵が退く。
右後方から〈火球〉が飛んできた。
そちらを見ずに〈隆起〉を発動する。現れた土壁に遮られて〈火球〉が爆発する。
周囲の王国兵の方に被害が出る。
俺は一歩前に出た。
王国兵が下がる。
だが、そちらの方向は。
「うわっ!」
「がっ」
王国兵の悲鳴が上がる。
矢や魔法の圧力がなくなり、自由に攻撃が出来るようになった3層兵たちが、攻撃を強めたのだ。
それからの戦いは、一方的なものだった。
俺たち3人は、牧羊犬のように王国兵を追い立て、3層軍の陣前に誘導する。さらに王国軍の攻撃軸を分散させて、反撃を弱める。
そんな俺たちの攻撃の前に、王国軍の陣容は、見る見るうちに溶けていった。