126 開戦
この地に陣を構えて3日目。ついに3層軍の前に王国軍主力が現れた。
「大集団では、あるな」
伯爵が奥歯に物の挟まったような言い方をした。
確かに数は多いが、大軍という言葉が使いづらい。
雑然とした感じだ。
「数は力です。ご油断なきよう」
ソラスがたしなめる。
「油断などせんよ。あの数を見ればな」
伯爵の言う通り、隊列も組まれていない兵たちが、次から次へと視界に入ってくる。
50米ほど先で横に広がるので、人の壁に見える。
こちらも同じくらいに広がってはいるが、2列横隊であるので、迫力はだいぶ負けている筈だ。
「勝つ為の準備はしている筈だが、こうしてみるとやはり浮足立ちはするな」
「兵たちは、なおさらでしょう」
ソラスの言葉に一つ頷くと、伯爵は立ち上がり、3層兵の前線、さらにその前に立った。
ソラスも続く。
「勇猛なる兵士諸君!」
未だ増え続ける王国軍に背を向け、伯爵が声を張り上げた。
「策は既に成り、勝利への道筋は見えている!
だが、残念ながら諸君の生存は保証できない!」
3層兵たちは直立し動かない。
「だが、これだけは保証しよう!
諸君が1人倒れる時間が、100人の無辜の民を脱出させる刻を稼ぐ!
諸君が地を這い稼ぐ1分が、1000人の民の命を救うことになる!
勇敢な兵士!
愛すべき3層の勇士達よ!
共に戦い、共に死し、3層の民を救おう!
我、キャシャール伯爵は、君達と共に前線にある事を誓う!!
民を救おう!!」
「民を救おう!!」
「伯爵!伯爵!」
「おおおおぉぉ!!」
兵士たちが槍を振り上げ、剣を抜き、大音声で声を上げた。
その勢いに王国軍は息を呑み、そして吸い込まれるように前進を開始した。
命令に寄らぬ、無秩序な前線。
後の世に言う、3層オラール原の会戦の始まりである。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
思ったより短くなりましたが、区切りがいいのでこのまま投稿してしまいました。
予定では、伯爵がもっと大演説をするはずだった…。