124 前哨戦その1
準備の整った隊から、競うように出発して行く。
千騎長も、エルマーも認識していないことだが、このダンジョンの軍勢は人間同士の大規模な戦いを経験した事がない。
1、2層の軍にいたっては、魔物相手であっても、せいぜい3、4頭を相手にした事がある程度だ。
百を超える軍勢同士が戦う事など、初めてのことなのだ。
だから、そのノウハウがない。
軍勢を進めること一つとっても、それが現れている。
10人単位の隊が、勝手に行動しても混乱を招くだけだ。
全員が騎兵の隊もあれば、徒士の隊もあるのだ。進撃の速度は、全く違い、当然3層軍と接触する時期も変わってくる。
2000以上の兵があっても、それが集中されていなければ、なんの意味もない。
そして、もうひとつ。
王国軍の兵たちは、自分たちで運べる3日程の糧食しか持っていなかった。
これには、さすがにエルマーが気付いて、すぐさま補給部隊を編成した。
だがそもそも、2000以上の兵の為の補給品など、あらかじめ用意していなければ、すぐにどうこう出来るものではない。
結局これも、用意が出来た分から、少しずつ送り出す事になってしまった。
つまり2300名に及ぶ大軍といっても、実体は統率の取れていない、ただの群衆に近いものだったのだ。
◇◇
「これはもしかすると、我々の出番はないのでは?」
3層軍の最後尾、補給品を満載した荷車の上で俺は呟いた。
ちなみに荷車を引いてるのは、ゴーレムである。
「あー、また馬鹿が突っ込んで来た?」
遠慮会釈のない表現で切り捨てたのは、ノマ。俺の後ろに座っている。
「今日に入って、3隊目ですかー」
ゴーレムの隣を歩いているシャルも、呆れたような口調だ。
トリモールに向けて、進軍を始めて3日目。300人が縦隊を組んで行進していくので、普通の旅程よりはだいぶ進みは遅い。
しかも今日に入ってから、散発的な戦闘が発生しているんで、余計に進みが遅くなっている。
10人ばかりの隊で、300の軍に突撃してくるって本当に馬鹿なのかな?
騎兵だけで正面突撃したって、鼻先に魔法を炸裂させれば、あっという間に、馬が棹立ち→落馬→一方的殺戮、で終了である。
最初は偵察が、血気にはやって突っ込んで来たのかと思ったが、そういうわけでもなかった。
コゴローンの警戒網に、本隊が全く引っかからないのだ。
ちなみに3層軍は1隊で2列縦隊を作り、2隊並んで行進している。
つまり4列縦隊という事だ。
敵を見つけた時は、2隊が左右に分かれて横陣に展開する。
後続の隊は、さらに左右に展開するか、横陣の層を厚くするかである。
だけど、今のところそんな行動をとる必要は、全くない。
本隊の前を偵察している騎兵が敵兵を見つけたら、本隊前まで引っ張ってきて、魔法からの突撃でほぼ終了である。
「あんなに頑張って訓練したのに」
「本番はこれから」
がっかりしている俺に、ノマが気合いを入れる。
「そうそう。30人倒したって、敵の1分程度なんだから」
確かに、この程度の戦果で安心するのも、甘くみるのも早すぎる。
この時は、そう思っておりました。
いつも読んでいただき、どうもありがとうございます。
実は新連載をはじめました。
「暗黒神(封印済)に転生したので、全力で暗黒神の復活を阻止します。」
よろしければ、読んでみてください。
新連載は、今のところ火、木更新ですが、いつまで維持出来るかは自信ありません。