122 反攻その3
犠牲者を少なくする為の準備は、ないがしろにしない。
倫理的な理由じゃない。
王国軍を壊滅に追い込むつもりなのに、倫理もへったくれもないしね。
味方の犠牲を抑えるのは、ひたすら戦いの後を睨んでだ。
伯爵の言う通り、戦いの後に我々は新しい国を起こす事になるだろう。
ただし、その新しい国は3層の一部も含む。
3層を王国に開け渡せば、王国軍の強化の為に瘴気まみれにされてしまう。
今の支配地域を確保して、少なくともそこだけは瘴気の発生を抑えたい。
となれば、3層に駐留させる兵力を確保する必要がある。
今俺たちが、手を貸しているのは非常時だからで、本来は6層を攻略したいのだ。
なるべく3層兵を消耗させずに、そのまま防衛戦力として残す。それが第1目標だ。
で、犠牲者を少なくする為の具体案その1。
ご存知、地魔法大活用だ。魔法兵は〈軟泥〉と〈隆起〉による陣地構築に慣れてもらう。
ついでに、その陣地を突破する方法も考える。相手が同じ手を使ってくることも、あり得るからね。
犠牲者を少なくする為の具体策その2。
防御石の量産。
量産と言ってもマイダンジョンを利用した量産法(ココア曰く、コピペ法)は使えないので、地道な人の手による量産だ。
それでも、兵士だけでなく待機中の避難民にも手伝ってもらい、人海戦術で日産10個を達成した。
これを戦いの日まで出来るだけ多く生産する。
そして、犠牲者を少なくする為の具体策その3。
悪辣な作戦を練る。
ノマは、そんな事を言っているが、俺としては不本意だ。
極々真っ当な正攻法だと思うんだが。
「まあ、デレクにしては正攻法かなー」
「悪辣さは足りないかも」
シャルとノマの評価が泣ける。
「いろんなダンジョンを見渡せば、オーソドックスな作戦ではあります。このダンジョンで、たぶん初の大規模な合戦なのに、いきなりぶちかますのは、どうかと思いますが」
ココアの評価も地味に酷い。
「なるほど。決戦兵力は非常識だが、理にかなっている」
「地魔法や防御石が生きてくる戦い方ですね」
伯爵たちの評価が心の支えです。
決戦を挑むと決めて、準備や訓練に明け暮れること1週間。
5層への避難は進んではいるが、やはりだいぶ遅れだしている。
そんな中、王国軍の動きも活発になってきた。直接襲ってくることはないが、偵察行動は頻繁になってきている。
王国軍の侵攻までに、あまり時間はない。そんな判断の元、作戦決行は、3日後とした。
◇◇
「報告します!」
トリモールの3層平定軍本営に、偵察に出ていた十騎長が戻ってきた。
「なにか」
3層平定軍のナンバー2で、実質的に取り仕切っている2層の千騎長が報告を促す。
「叛乱者共に動きがあります」
叛乱者。それが3層や5層の民の今の王国内での位置付けだ。
実際に叛乱を起こしたか、攻め込んだのは自分たちではないか、などということは一切考慮されない。
「は!兵300がフクサを出発し、トリモールを目指すようです。第3ダンジョン卿の旗とキャシャール伯爵の旗も確認できました」
報告を聞いて千騎長は唖然とし、そして破顔した。
「キャシャール伯爵め、自棄になったな!全軍出撃準備だ!」
そこまで叫んで、隣にいる副官の表情に気付いた。
「あ、将軍閣下に報告せねばな。出撃準備はやっておけよ」
そう言い置くと、千騎長は面倒くさそうに将軍の執務室に入っていった。