119 救出その4
「イブン、食事が出来たよ。みんな呼んできな」
母親の声がした。
早いもので、イブンがこのダンジョンに住むことになって10年が過ぎた。
生き別れになっていた、母も1ヶ月後にこのダンジョンに移り住む事が出来た。
(なにもかもジュモー様のおかげだ)
イブンは、ジュモーの住まう屋敷の方を向き感謝の念を捧げた。
残念ながら父は死んでいたが、母を見つけられただけイブンは幸運な方だろう。
最初に保護された14人のうち、近縁者が見つかったのは、イブンも含めて4人のみだった。
ただ、半月ほどのうちに、前のダンジョンで救出された人間は増えて、村自体は100人程の規模になった。
今のイブンの嫁も最後に救助された女性だった。慣れない新しい土地で、先輩として世話を焼いたのがイブンの母だったので、それが縁で所帯を持ったのだ。
今では子供も3人いて、賑やかな家庭になった。
「ばーちゃん、ご飯なにー!」
「なにー」
真ん中の男の子と末の女の子が、叫びながら家に入ってきた。
後から長女と嫁が野菜の入ったカゴを持って、帰ってくる。
「野菜のシチューだよ」
母が答えると食べ盛りの2人が口を尖らせる。
「えー!ニクはー?」
「ニクー!」
「今日俺が作った腸詰肉を少し入れてあるよ」
俺がそういうと、2人は両手を上げて飛び回った。
「やった〜!」
「やった〜」
(幸せだ)
イブンは、幸福を噛みしめる。
前のダンジョンでは、あんなことになる前でも、こんな幸福を感じることがなかった。
ここには豊かな土地と気のいい仲間、愛する家族がいる。
ダンジョンの常で、たまに魔物は発生するが、瘴気の発生に気を付けているので、あまり強力なものは出ない。
(それもこれも、ジュモー様とピエール様のご指導あっての事)
最初の1年程は、ジュモーもピエールも常に村を見回っていろいろアドバイスをしてきたが、最近はずっと屋敷にこもっている。
姿を見せるのは、年四回行う祭のときくらいだ。
それでも村人たちの尊崇は変わらない。
(最初に自動人形とおっしゃったときは、意味がわからなかったけどな)
ジュモーもピエールも10年が過ぎても姿が全く変わっていない。
イブンにしても、他の村人にしても自動人形に対する理解は、不老不死の存在といった程度だろう。
それで別に困りはしない。彼らが何者であろうと、村の保護者であることは変わりがないのだから。
「ダンジョンマスターとジュモー様に感謝を」
イブンたちは声を揃えて食前の感謝を込めて捧げると、賑やかに夕食を食べ始めた。
「今の第2層の状況は、ご覧の通りです」
ジュモーがうやうやしく頭を下げた。
「平和そうでなにより」
おお、なんか俺、偉そうだな。
「今の人口は?」
シャルが尋ねた。
「132人です」
「十年で21人増かー。ちょっと物足りない?」
「まあこんなもんじゃないかな。旧ダンジョンが、もう少し落ち着いたら、移住者も増やせるだろうし」
「祭りが使えることがわかっただけで、大成果」
ノマの言葉に頷く。
「こんなに瘴気の発生が抑えられるとは、思わなかったよ」
「旧ダンジョンでもやりたいけどねー」
言外で難しそうだと指摘する、シャルの言葉に苦笑する。
「こっちはジュモーの権威があるから、みんなにやらせるのは簡単だったけどな」
「そこは旧ダンジョンでは、デレク先生の権威で」
「よせよ」
いなしてジュモーとピエールに向き直る。
「これからも2層の管理をよろしく頼む」
「は!」
永遠を生きる人形たちは、永遠を支配するマスターに頭を下げた。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
前の回はどうも、予約投稿をミスってたみたいです。
台風のせいもあり気がつくのが遅れました。どうもすみません。
台風通過地域のみなさんは、いかがお過ごしでしょう。あまり被害がない事をお祈り申し上げます。