118 救出 その3
ジュモーと名乗る女性は、自分が自動人形だと言った。
正直、イブンにはそれが何を意味するかは、良く分からなかった。
普通の人間ではなさそうだ。という事ぐらいだろう。
ダンジョンマスターに任された、という言葉についても、さほど感慨はない。
なにしろ、元のダンジョンではダンジョンマスターの気配を全く感じられなかった。神殿に祀られている神さまよりも、縁遠い存在だった。
おとぎ話めいた話の中に、たまに語られる程度だろう。
それは、イブン以外の者たちも同様であった。
おそらくジュモーが期待したであろう、どよめきなどは産まれず、先を促す沈黙のみが流れた。
「わたしたちはともかく、マスターの偉大さもわからぬ様子とは。度し難いのう」
ジュモーはピエールにしか聞こえぬ大きさで呟き、彼は微かに頷いた。
「お主らも、薄々気がついておろうが、お主らは前のダンジョンで死にかけた身じゃ。そのおり近しい者もいたじゃろうが、マスターが救えたのは、お主らだけじゃ」
「そ、それでは妻や息子は?!」
イブンの隣にいた30歳過ぎの男が声を上げた。
「分からん。マスターが見つけたのは、積み上げられた死体と共に放置されていたお主らだけじゃ。その死体の中にいたのかもしれんし、逃げ伸びたのかもしれん」
男は声もなく、顔を両手で覆った。
「マスターは、死の直前にあるお主らを救った。だが、そのためにこのダンジョンにお主らを連れて来る必要があった。
はっきり言おう。お主らは以前のダンジョンに戻ることはできん」
イブンも含めて、その意味をわかっているものはほとんどいないようだった。
そもそも、ダンジョンの外に別のダンジョンがあるという考え方をした事がないのだ。
ちなみに、前のダンジョンに戻れない、というのは単純に秘密保持の為だ。
デレクに、二つのダンジョンを行き来する人間を安易に増やす気は無かった。
仮にここにいる者の近しい者が旧ダンジョンで見つかった場合には、その者をこちらに連れて来るつもりでいた。
「慈悲深き我がマスターは、お主らが生きていけるようご配慮くださっている。そこの扉から、外に出てみるがいい」
状況の急変について行けず、魂の抜けたようになっているイブンたちは、言われるがままに外に出る。
「おお」
全員の口から思わず声が漏れる。
そこにはなだらかに広がる草原と、手入れの行き届いた畑、そして真新しい家々が並んでいた。
「お主らが、1年間生きていけるだけのさまざまな物をマスターは用意してくださっている。だが、それ以降はお主らの努力次第じゃ」
ジュモーは他の家と離れた場所に立っている、一際大きな家を指差した。
「わたしとピエールは、階段を守るあの屋敷におる。お主らが努力してもままならぬ事があれば、訪ねて来るがいい」
この日から、デレクのダンジョンの第2層が拓かれたのである。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
相変わらず短めですみません。
なんとか次回は、もう少し長めの投稿してができるように頑張ります。




