11 新たなる力
翌日。
当初の予定通りに、5層の攻略を続ける俺たちと、4層の魔物の掃討を行う尖兵たちは村を出発した。
4層組には、見習い達も入っている。経験を積んでレベルを上げるには、手頃という判断だ。戦力が多いから、死ぬ確率は低いだろう。
(それは、フラグという奴では?)
ココアは、本当にチョイチョイ訳の分からない事を言ってくるな。
ちなみに、村を守るのは備兵。有り体に言えば、農民や職人たちだ。こんな開拓村にくる人間だから、それなりに戦える者ばかりだ。
尖兵を引退した人も、いるしね。
「さて、行くか」
俺たちも村の門を出て、空堀を渡る。
今回は、3日ほどの遠征を考えている。不自然にならない程度に、荷物を背負っているが、重い物はマイダンジョンに放り込んでいるので、かなり軽い。
俺の場合、重いのは投石器用の礫くらいだ。
昨日のうちに、マイダンジョンには天幕を3つ張ってある。
宿泊用とトイレ用だ。
このトイレ用天幕に、女性陣はいたくお慶びであられた。
「辺境の地に、文明の曙が訪れた」
ノマなぞは、そう言いながら拳を握りしめ、天を仰いでいた。
大仰すぎるとは思うものの、気持ちはわからないでもない。
攻略中のトイレというのは、悩みのタネだったからね。無防備になる上、俺たちのような男女混合チームは、いろいろ気まずい事が多い。
そいつが一挙に解決するのだ。
眷族になった事で2人は自由にマイダンジョンに入れるし(正確には、そういう権能を与えた)、出した物はダンジョンに吸収させるので、悪臭もなし。
確かに素晴らしい。
「なるべく早めに、材木を手配して、あっちに家を建てたいなぁ」
草原を歩きながら、シャルがそんな事を言う。
「ああいいですね。力素が余ってれば、私が生成することも可能なんですが、今の状態じゃちょっとキツいのが残念です」
これはココア。眷族になったことで、シャルたちにも声が聞こえるようになった。
最初にちょっとした混乱もあったが、あっという間に馴染んでしまっている。
「今の状態でも、安全性はグッと上がったし、快適性の向上はゆっくりでいいよー」
「シャルの言う通りだな、出来る事から着実に」
「その通りなんだけど、デレクが言うと面白味がない」
「それは、あまりに理不尽じゃ…。魔物だな」
起伏の為に目視出来ないが、100米程先に複数の魔物を感知した。
通常なら、ここで俺が先行迂回して奇襲をかけるところだが、今回は正面戦闘を行う。
「なぜまた、そんな事を」
出発前の打ち合わせで、提案したところノマが不思議そうに言った。
「今のうちに慣れとこうと思ってね」
「慣れるって、正面戦闘に?」
「そう。幸いココアのおかげで、能力値も上がって、安全性も上がった。試すなら、今でしょ」
「ふーん」
シャルとノマは、顔を見合わせてちょっと笑った。
あの微笑みは、気がついてるんだろうな〜。
あの時の事を思い出してみて、そう思う。
今回、こんな事を考えたのは、ガースの為に、2人が奇襲を受ける側になったからだ。
いつも有利状況でばかりで戦うと、困ることもあるのではないか、と考えたのだ。
だからといって正面戦闘で、怪我でもしたら意味がない。やるべき事はしっかりとやる。
シャルは、弓に矢をつがえ、俺は投石器の準備をした。
「そこの丘を越えると、多分見えてくる」
そう言いながら進んで行くと、反対側から丘を登ってくるゴブリンが見えた。
その数、5頭。
「いっくよ〜」
気の抜けた声と共にシャルが矢を放つ。
上半身が見えかかっていた、先頭のゴブリンの頭部を貫いた。
俺も礫を放つ。
投石器と、ダンジョンマスターになった事によって増加した筋力の相乗効果で、驚くほどの勢いで飛んでいった礫は、右側のゴブリンの胸に当たった。
「あれ、めり込んでない?」
「うん。痛そう」
シャルとノマのそんな会話を聞きながら、俺は自分の魔力が減少するのを感じる。
「ココア、行きまーす」
妙に嬉しそうな声で、ココアが言うと〈障壁〉が発動した。
魔力こそ共通だが、俺が意識せず魔法が使えるというのは、戦いでは物凄く有利だ。
ちなみに、発動したのは初級の防御魔法で、魔法も通常攻撃も防げるという、使い勝手の良い術だ。
防御力自体はお察し、だが。
残りのゴブリンたちは、2頭が棍棒を振りかざして突っ込んでくる。残り1頭は石を投げ返してきた。
「ぐぎゃ」
突っ込んできたゴブリンは、なんとも言えない声を上げて〈障壁〉に衝突した。
石も同様だ。
「解除して」
そう言うや否や、シャルが抜刀して前に出た。俺も慌てて続く。
「解除」
「真ん中に魔法」
ココアの声とノマの声が続いた。
シャルは右手の、俺は左手のゴブリンを受け持つ。
空いた真ん中をノマの放った〈石槍〉の魔法が、飛んで行く。
次の瞬間には、ゴブリンは全滅していた。
「まぁまぁかな?」
返り血も浴びていないシャルは、満足気に言った。一方、ノマは不満気だ。
「この程度だったら、魔力を温存するべきだったかも」
なるほど、ノマの言うこともわかる。
「せっかく、安全な休憩場所が手に入ったんだ。戦闘を早く終わらす方を優先して良いんじゃないか?」
討伐証明の右耳を切り取ってから、その安全な休憩場所へゴブリンを放り込む。
「わーい、初ゴブリン〜」
ココアが妙なところで、喜んでいる。
「確かに、その通りかも」
ノマも同意し、薄く微笑んだ。
読んでいただきありがとうございます。
各話タイトルは、特に意味はありません。たんなる識別記号程度のつもりでいてください。
最初は凝ったことをしようかと思いましたが、力つきました。
次回は12月24日に投稿予定です。
2018年12月22日:誤字訂正。さらにわかりづらい表現を変更しました。