114 逃亡その4
2層兵を片付け、領民たちを連れて逃亡を再開する際、ノマが最初にしたことはゴーレムをマイダンジョンから呼び寄せることだった。
呪文と閃光の演出付きで、魔法で召喚したように見せている。
ゴーレム召喚の魔法は存在するが、ダンジョンマスターが召喚するゴーレムに比べると、単純作業にしか使えないし、魔力も大量に消費する。
今回はゴーレム君が使役するゴーレムを1体借りている。
さらにこっそり、コゴローンも4体来てもらった。
コゴローンというのは、ゴローンを小型化したものだ。大きさは、大人の握り拳程。
戦闘力は落ちたが、隠密性は大幅に上昇した。
コゴローンで四方を警戒して、ゴーレムに重い荷車を引っ張ってもらう。
何も考えずにひたすら進めるので、だいぶ行程が捗った。
交戦後出発して3時間程。そろそろ、日が暮れてくる。
モーオの街までは、あと1日はかかるだろう。
一方で2層の騎兵が追跡してきているのも、確認した。
生き残りの2層兵をあっさり始末したのも、シモベを通じて確認したが、その事にはノマはあまり心を動かされなかった。
あり得る将来として予測していたし、2層での経験から可能性として高いと思っていたせいでもある。
だが現場指揮官までにも、そうした冷酷さが行き渡っていると思うと、それなりに気が重くなるのも確かだった。
少なくとも、こちらが不利になっても降伏するという選択はできない。
降伏イコール殺されるという事だ。
今、追ってきている騎兵も夜間行軍はしないだろうから接触するのは、明日の昼近くだろう。
正面戦闘では負ける気はしないが、問題は騎兵の機動力を生かして、大きく迂回と包囲をされた時だ。
四方八方から同時に攻められた時、領民たち全員を守るのは、至難の業だ。
(籠るか)
ノマは結論を出した。
◇◇
翌日早朝。
夜明けとともに斥候を出していた十騎長は、不思議な報告を聞く事になる。
「小山だと?」
「は。5粁程先の道の脇に直径15米、高さ7米程の岩の小山を発見しました。表面は滑らかで、明らかに人の手が入って物と思われます」
「人が立て籠もっているようなのか」
「上部に穴のようなものが空いていましたが、登る事が出来ずに確認できませんでした。ただ、物音はしました」
「物音?」
「はい。ざわざわとした中で何かが動いているような」
「ふむ」
「いかがなさいます?」
副官の問いに十騎長は命令を下す。
「その小山まで前進する!」
騎兵たちの目の前に、報告通りの小山、というか半球状の岩が見えた。
もちろん強力な魔法使いがいるかも知れないので、500米程手前から散開して接近している。
占領地を出発する時には、ありったけの魔法封じを身に着けているので、魔法対策は万全だ、と十騎長は考えている。
実際には、2層製の魔法封じの魔法陣は、相変わらず威力を弱める程度の効果しかないのだが。
とりあえず、万全と信じた装備で慎重に小山に接近して行く。
全周から、突出しすぎないように。
自らの弓や魔法の射程。50米を切った辺りで、十騎長は右手を上げた。
それは、次々と中継され騎兵たちは停止する。
「攻撃してみろ」
十騎長は、副官と共に控えている魔法兵に命じた。
〈火球〉が5発飛んで行く。
小山に命中したが、表面を汚した程度に見える。
「上部に穴があるように見えるが、あそこは狙えるか?」
頂上付近に所々見える、四角い穴を指し示す。
「もっと接近すれば」
魔法兵の返事に考え込む。
接近すれば、兵の間の距離は縮まり魔法の一撃で倒れる数も増える。
だが、こちらの攻撃が通じなくては意味がない。
十騎長が前進を命じようとした時、小山に異変があった。
山の頂上に人影が見えたのだ。
華奢な女性に見える。
「このまま、撤退すれば見逃す」
ぶっきらぼうな、だが耳に心地よい声が聞こえてきた。
声を張り上げている様子はない。
魔法で起こした風で、声を届けているようだ。
「攻撃せよ!」
十騎長が叫ぶ。
一斉に魔法や弓が放たれる。
遠目には次々と女性に命中しているように見える。
だが、女性はなんの動揺も見せない。
「これが返答?残念」
反撃が始まった。