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ダンジョンは世界だ!  作者: トト
110/134

107 避難その1

「さてどうしよう」


第三ダンジョン卿からの使者を目の前に、オーミー男爵はオロオロと狼狽えている。


「お言葉ですが、急いで避難の用意をされるのが、よろしいかと」


二人組の使者のうち、年嵩の方が言う。


「だがね。急に土地を捨てて、5層に逃げるなんて言って、領民がハイ、そうですか、と従うとは思えないよ」


オロオロと狼狽え、爪を噛んで落ち着かない様子を見せているが、オーミー男爵は言うべき事は言うタイプのようだ。


20代前半の若い領主ながら、一筋縄ではいかない人物と見える。


「2層が攻めて来るというのは、本当なんだろうね?」


「もう、攻めて来ています。トリモールは2層の兵だらけです」


「第二ダンジョン卿は、3層を攻めてどうする気なんだろう」


オーミー男爵が呟く。


「それは、我々にはなんとも」


使者の若い方は、そう言って苦笑したが、年嵩の方は、鋭い視線で男爵を見た。


「伯爵と第二ダンジョン卿を秤にかけるおつもりで?」


「そりゃあね」


男爵はニコリと笑った。


「5層に逃げる話とここで新たな支配を受ける話、どっちが有利か考えるのは、当たり前だろう?」


そこで男爵は振り返って、そこに控えている自分の家臣たちを見た。


5人いる家臣たちは、特に表情を表していない。


「とはいえ、材料が少な過ぎて、過去の信用で動くしかないか」


男爵は立ち上がった。


「何処へ?」


「とりあえず領民に話してみるよ。ホントに困ったなぁ」




領民に対する説明は、散々なものだった。


特に年配の領民は土地に対する執着が強く、なおかつ若い領主に対して遠慮がない。


罵声とまではいかないが、それに近い言葉が飛び交った。


「この土地を捨てて、どうしろと言うんじゃ!」

「ご支配が変わったと言って、生活が悪くなると限ったもんじゃなかろう」

「そもそも、そこで盾になるのが、ご領主様では」

「そうじゃ!そうじゃ!!」


若い領民たちや2層の噂を知っている者は、不安気にしていたが、年配者に押し切られる形となった。


「3層の気風が仇となりましたね」


不思議とオーミー男爵は、落ち着きを見せている。


「3層の気風ですか?」


年嵩の使者が疲れた様子で、聞き返す。彼は、先程の集会で、ふざけた話をもたらした者として、吊るし上げを喰っていた。


「良くも悪くも、貴族と領民に仲間意識がある。2層に比べて、まだ魔物が出るので、協力してあたる事が多いからでしょうね」


さて、とオーミー男爵は立ち上がった。


「2層の兵は、どれくらいの人数で動くと思います?」


「1隊以下という事はないと思いますが」


「最低11人ですか」


自分の家臣たちを見やる。


「貧乏くじを引かせる事になるな。すまない」


一番体格のいい、有り体に言えば肥っている男が破顔して答える。


「この肉も脂も、男爵家の給金で育ったものです。何か事あればお返しするのは、当然の事です。お気になさるな」


「返されても困るような物だがな」


家臣中唯一の女性がまぜっ返し、一同が笑った。


「男爵閣下?」


使者の若い方は、一連のやりとりの意味がわからなかったのだろう。


「2層の兵が我が領に来た場合は、私と家臣たちが盾となる。申し訳ないが、使者どのたちは、我が領民を引き連れ、逃げてはくれまいか」


「男爵閣下!」


「領民たち、特に年寄りたちは、そうでもなければ動くまい。お手数ですが、お頼み申す」


オーミー男爵が頭を下げ、家臣たちが続く。


「男爵閣下、頭をお上げください」


年嵩の使者も立ち上がる。


「もとより、我々はそのために参ったのです。ですが、改めて我が剣に誓いましょう」


使者は鞘ごと剣を抜き、それを立てるようにして捧げ持つと、剣を僅かに抜き、音を立てて納めた。


「我が命と名誉にかけて、オーミー男爵領の領民を、5層に避難させましょう」


「かたじけない」


それから2日、男爵たちと領民のうち不安感を抱いている者たちで、可能な限りの避難準備を整えた。


荷車は、全て修理を施し、食糧や水避難先での必需品を積み込む。

その準備に文句を言う者もいたが、何事もなければ、また戻すのだからと宥めすかして、やり過ごした。


そして、その日が来た。

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