10 未来と方針
とりあえず、部屋の中にマイダンジョンへの入口を作った。
「実物を見た方が早い。危険はないから、ついてきて」
そう言って入口をくぐる。
シャルもノマも、特に躊躇う様子もなくついてきた。
(信頼されてますね〜)
まあね。
「これは、なに?」
ノマは周囲を見回しながら呟き、シャルはボーっと立ち尽くしている。
大きめの家一軒が建てられるくらいの広さになったとは言え、周囲を壁で囲まれているのは変わりない。
やはり圧迫感あるよね。
(ちなみに、壁、見えなくすることは可能ですよ。力素がもったいないんで今はやりませんけど)
「ここは、俺がマスターになっちゃった、ダンジョンだ。さっきのコボルドの死体は、ここに送って吸収させた」
「はい?」
「えーと?」
2人とも要領を得ない様子で、額を押さえている。
まあ、意味わからんよね。
もうちょっと詳しく、ダンジョンの成り立ちも含めて説明した。
「一応、状況は理解しました」
「まあね。でもデレクは、これからどうなる気なの?」
「とりあえず、今まで通りかな。違うのは、死体をここに送るだけで」
「それなら、両方の利益にはなりそうね」
「人の利益には、ね。向こうのダンジョンマスターはどうかな」
確かにノマの言う通りだ。
今の元ダンジョンの状況が、ダンジョンマスターの意図通りだとすると、俺のやる事は、その妨害ということになる。
「まーね。でも私たちとしては、生存範囲を広げるのが正義だしー」
これまたシャルの言う通りだ。
俺とノマは、頷くしかない。
「じゃあ、私たちはどうすればいいの?」
「俺の事を秘密にして、協力をお願いしたいんだけど、提案もある」
「提案?」
「今の俺は、ダンジョンマスターになっているので、前よりも大分能力が上がっている」
「ああ。そういえば、あの時の〈炎槍〉は随分威力が上がっていたな」
ノマが頷きながら言う。
「で、2人の能力を上げる方法もあるんだ」
言葉を切って2人を見ると、妙にニヤニヤしている。
「どうぞ。続いて」
シャルの言葉に促されて、俺は言葉を継いだ。
「その方法とは、俺の眷族になる事だ。ただ、そのことによって、2人は俺に逆らいにくくなって、害することは絶対にできなくなる」
「あれ?思ったより穏当?」
「そうね。俺の女になれ、くらいは言われるかと思った」
「いやぁ、眷族になる方法が、そう言うのかもよ?」
「なるほど!」
いやいや、お嬢さん方。なにを言ってるんですか。
(眷族契約の方法は、ご主人様の血液を与える事ですが、別に白い血液を体内に出す事でも可能ですよ)
ココアの、妙に弾んだ声に俺はむせ返りそうになる。
「若い女の子が、そう言う事言うもんじゃありません!」
俺は3人に向かって、叫ぶ。
「デレクは、女性に夢を見過ぎだな」
(ですよね〜)
「ホントホント、人前でオナラするな、とか言いそう」
「いや、それはしない方がいいのでは?」
「マナーとして本人が心掛けるのは、当然」
「それを人に押し付けるのは、ちょっと…」
(特に女性にだけ言うのは、どうかと)
なんでココア込みで、会話が成立してるの。2人には聞こえてないよね?
「とりあえず、なんかゴメン」
何故に俺が責められる流れになったのか、釈然とはしないが、一応謝っておく。
長年2人と付き合ってきた男の、哀しい処世術だ。
「心がこもってないな〜。まぁいいか。じゃ、契約しよ」
「はい?」
「眷族の契約です。どうすればいいの?」
「シャルもノマも、そんなに簡単に決めていいの?」
「ええ?悩む余地あるかな〜」
「デレクを殺す気があるなら、悩むかもしれない」
「デレクを常に崇めなきゃ」
「いつも崇めてるぞ、私は」
あれでかい。
内心で突っ込まずにはいられない。
ココアから内容を聞いて、いろいろ悩んでたのが、馬鹿みたいだな。
というか、俺の方が彼女たちを崇めなきゃいけないかもしれない。器的に。
なんのかんのあって、2人には俺の血を飲んでもらった(白くないよ!)。




