105 防衛、独立、そして避難
「まあ少なくとも王は、そんなところを信じているだろうな」
「なんか含みのある発言だね、公子」
「父上とソラスは、もう少し人が悪い事を考えている」
ほほう?
「上層にしかいない兵は、下層の兵に比べてどうしても弱くなるだろ?」
「そりゃあ」「ねぇ」
シャルとノマが頷く。
現れる魔物の強さが違うのだから、
「では、上層の兵を強くするにはどうすれば良い?」
「下層で鍛えればいい。3層の兵のように」
「それは下層の人間に頭を下げなきゃいけないから、連中には無理だな」
「頭おかしい」
ノマの率直な意見に思わず笑った。
「まあ私も同感だがね」
エウォルも苦笑する。
「そんな、頭がおかしい連中が自分の兵を鍛えようと思ったら、どうすると思う?」
「まさか、湧かせるってこと?」
「多分ね」
信じられない思いで言った事をエウォルは、簡単に肯定した。
「わざとダンジョンを荒らして、魔物を湧かせればいい。連中が5層で起きていると疑っている事をわざと起こすわけだな」
「そんな馬鹿なこと」
誰かが力なく呟いた。
「まさか」
ノマがなにかに気付く。
「3層と5層が連合して攻め上る事を疑っているって、そういう事?」
「それを口実に3層に攻め込んで、3層を荒らすつもりなんだろうな」
「だが、それは想像だろう?」
「確かに想像だけどね、層長」
エウォルは哀しげな目で層長を見た。
「2層は、すでに下り階段に兵を集結させている」
「俺たちも、来る途中で確認した」
エーモンが補足した。
「父上は、すでにトリモールからの退避を民に呼びかけている」
全員、呆然として声もない。
「みんなに集まって貰った理由は、これだ」
エウォルは、何故か俺を見つめた。
「防衛と、そして独立について」
◇◇
トリモール外壁から1粁ほど離れた村に置かれた、野戦陣地。
「避難の状況は、どうか」
第三ダンジョン卿改め叛徒の首魁となったキャシャール伯エナルトが、傍らの人物に尋ねた。
「トリモールは、半強制的に避難させましたので領民は残っておりません。3度確認させましたので、確実です」
線の細い金髪の若い男性が、疲れを見せながらも、はっきりとした口調で報告する。
宮廷で失脚しエナルトに拾われた、元ガルテア子爵のソラスだ。
「ここから下り階段までの街道も確保してあります。4層の通過に関しては、5層の尖兵が協力してくれているので、問題ありません」
ソラスは言葉を切った。
「いい話は、ここまでです。問題はトリモールを挟んで反対側の民たちです。トリモールの周囲は、なんとか退避させましたが、それ以上は」
「彼らに頼るしか、ないのか」
エナルトとソラスは、重く口を閉ざした。