103 亡命
「おいおい。森の村も変わったけど、開拓村は変わったなんてもんじゃないな」
見えて来た開拓村の様子に、呆れ半分感動半分の声が出る。
御者に言って、村の外れで降ろしてもらった。
いやまあ、実は鳥のシモベを通して変化は知っていたんだが、こうして自分の目で見ると感動もひとしおだ。
両脇に立つシャルとノマも、口をポカンと開けている。
まずなにより広くなった。
以前は居住地の周りに柵を立て、その外側に畑を作っていた。今、俺たちの立つ位置からは柵が全く見えない。
真木を中心とした林とため池。広大な畑に、ところどころに建つ家。
そんな風景が広がっている。
鳥のシモベから得た情報で、こういった風景が1粁ほど続いている事を俺たちは知っている。
その事を踏まえて、この風景を見るとこの半年余りの期間で起きた変化に圧倒されてしまう。
(その変化を引き起こした人が、何いってるんですか)
ココアが呆れたように言うが、引き起こした張本人だからこそ、びびってるんじゃないか。
(胸張って、びびってるなんて言われてもねぇ)
この微妙な男心、分からんかなぁ。
辺りの風景を楽しみながら、道を歩いていく。
畑には作業している人が見えるが、半分以上は知らない顔だ。3層からの移住組だろう。
たまに見かける古株が、俺たちに気がつくと手を振って来た。
移住組に何人かの古株を張り付けているようだ。指導役兼護衛だろう。
「のんびりしている」
ノマの言葉にシャルも俺も頷く。
6層や森の村はもちろん、以前の開拓村と比べても、のんびりとして長閑に思える。
一つは真木によって、魔物が抑えられているせいだろうが、それだけとも思えない。
「目に見えて、土地が拓けていってるしねー」
シャルの言う通りだろう。
この辺りが農地になったのだって、ここ2月程の間のはずだ。
魔法ありきの開拓とはいえ、尋常な速度ではない。
それに連れて生活も、みるみる変わっていっているはずだ。
「人間、豊かになれば心に余裕ができるってことか」
「豊かなのが続けばいいけどねー」
この先待ち受けるものを考えてだろう。シャルが不吉めいた事を言う。
「まあ、頑張るだけさ」
昔の居住区の辺りまで来た。
かつてあった塀や空掘は取り壊され、居住区自体も広がっている。
新しい建物が、やややっつけに見えるのはご愛嬌だろう。
前の村長の家、今は集会所になっている建物に向かう。
「呼び出してすまんな」
そこには層長やオロンにエウォル公子、それに商隊のリーダー、エーモンがいた。
「久しぶりだな」
尖兵よりも尖兵らしい風体のエーモンが、白い歯を光らせて挨拶してくる。
「俺とは久しぶりだけど、商隊はこの前来たばかりじゃなかったっけ?」
商隊が来るので、取引用の命石を大量に用意した覚えがある。
「今回は、商隊として来たんじゃねーんだよ」
日に焼けた逞しい顔に、困ったような表情を浮かべている。
「今回は、かかあやガキ共と来たんだ」
わけが分からず、層長を見る。
「エーモンたちは、5層に逃亡して来たんだ」