100 ゴブリンリーダー
ゴブリンアーチャーたちと、最初に交戦してから1ヶ月ほどたった。
嫌がらせ攻撃の度に、ゴブリンアーチャーに遭遇するわけではないが、遭遇の度に戦い方が洗礼されてきている気がする。
前回などは、不利になったと覚ったら、整然と撤退をはじめたくらいだ。
もちろん、そのまま撤退などさせずに、横撃を加えて壊乱させたが。
さらなる変化として、極少数なんだけど、降伏する魔物が出てきた。
知恵というか知性が芽生えた証拠なんだろうが、これには俺たちもビックリした。
とりあえず降伏してきた魔物は、アルファに預けてある。
戦いそのものに拒否感を持つ魔物(!)もいたので、そいつらは農民として教育する事にしてある。
おかげで6層の面子は、非常にバラエティに富んだ感じになっている。
「じゃあ、嫌がらせ攻撃に行きますか」
あまり定期的に行うと、パターンを読まれてしまうので、前回から1週間程間をあけて、久しぶりの嫌がらせ攻撃に出発する。
今回はいつもの9人に加えて、要塞山整備のために召喚したうちの6人だ。
要塞山の整備も、ほぼ完成が見えてきたので、いろんな仕事に手を出してもらう一環だ。
要塞山周辺の魔物の排除で、だいぶレベルは上がっているから、レベル上げの必要はないけど、たまには環境も変えないと、息がつまるよね。
という事で魔樹の森で暴れているわけだが、今回はシモベたちが最近言うところの「当り回」っぽい。
組織的なゴブリン部隊に遭遇したのだ。
しかも、今までより一段と組織化されている。
ゴブリンアーチャの援護下で、剣装備のゴブリンたちが突入してきたのだ。
総数80程度か。
「成長著しいな」
突入部隊の足下に〈軟泥〉をかけ、突入を分散させ各個撃破する。
同士討ちをしないように、ゴブリンソルジャーが接近している間は、アーチャーも矢を放たない。
魔物ながら、そして敵ながら見事な統率だ。
だが、その見事な統率を無に帰す者が現れた。
「何をしてる!矢を射かけよ!」
妙に甲高い声が聞こえた。
俺たちも、そして戦っていたゴブリンたちも、手を止めそちらを見る。
新たに100名程のホブゴブリンを引き連れ、現れたのは一回り大きな体格のゴブリンだ。他のゴブリンと違い、胸甲を見につけている。
「シ、シカシ、りーだー」
脇に立つ杖を持ったゴブリンが、慌てたように言う。
「えーい!手緩い!全軍突撃!アーチャーは矢を射かけよ!」
リーダーは剣を抜いて振り上げ、叫んだ。
「うわぁ」
シャルが思わずといった感じで声を漏らす。
俺が近くのゴブリンソルジャーに目をやると、しょうがないなとばかりに肩を竦めていた。
やりにくいなぁ、もう。
「全員、障壁、結界を多重展開!」
そう叫んで、俺自身も障壁を二重に張り、さらに結界を張る。防御石を含めれば四重の防御だ。
そこに矢が雨の様に降り注ぐ。
敵も味方も関係なしだ。
いや、俺たちは障壁で防いでいるので、味方であるはずのゴブリンたちのみが、一方的に被害を受けている。
「いやぁ」
「これは、ちょっと」
見ていられなくなって、ゴブリンソルジャーごと、〈隆起〉で石壁を作り保護をする。
息のあるゴブリンには、治療を施す。
暴れられても困るので、治療は最小限にしたが、抵抗するものも暴れる者もいなかった。
みな、黙って頭を下げる。
一方、石壁の向こうでは大騒ぎになっていた。
「魔法攻撃をはじめよ!」
リーダーの声と共に爆発音が聞こえる。
防御を固めたまま石壁から、頭を出して覗いてみたら、杖を持ったゴブリン10名ほどが〈火球〉を連発している。
〈火球〉は石壁にぶつかっては爆発し、石壁の表面を削っている。
だが、明らかに石壁に与えるダメージより、周囲の魔樹に与えている被害の方が大きい。
「あいつ、もしかして馬鹿?」
呆れた様な口調でノマが言う。
もちろん対象は、ゴブリンマジシャンたちの中心で喚き散らしているリーダーだ。
「こいつら、殺さない方がいいな」
俺も呆れ半分で言うが、こういう奴等を利用しない手はない。
「ちょっと行ってくる」
そう言い残すと石壁から飛び出す。
「出てきたぞ!殺せ!」
リーダーの叫びに、マジシャンたちの狙いが俺に移る。
あとは、適当な速度で辺りを逃げ回るだけだ。
その後を追いかける様に、魔法で魔樹を倒してくれる。
30分も逃げ回っただろうか。
魔力も矢も尽きたゴブリン軍団は、リーダーの「無能者どもが!」という叫び声と共に撤退していった。
後に残されたのは、俺たちが嫌がらせ攻撃で行うよりも念入りに破壊された魔樹の森だ。
「なんだったんだ。あいつら」
うん。イシュル。俺もそう思う。