99 激突その2
「これはビックリ」
シャルが間抜けな声を上げた。
だが、手をこまねいているわけではない。
俺とノマは〈隆起〉で全員を取り囲むように岩の壁を作った。
上空は剥き出しだが、角度をつけてそこから狙う知恵はないようだ。
狙われたとしても、防御石で防げるので問題はないけど。
手分けして、壁に20糎四方の穴を開けて、その穴から矢を射る。
「ずいぶん慎重」
ノマが愚痴る。
相手はゴブリンのようだが、ほぼ全員が弓を持っているようだ。木立に身を隠して矢を射てきているので、こちらの攻撃もあまり有効打になっていない。
「範囲魔法を使いますか?」
イシュルが聞いてきたが、首を横に振る。
「あまり派手な魔法を使うと、魔物を呼び寄せるだけだ」
今の連中も、この空き地を作る事になった範囲攻撃魔法を目印に、集結してきたようだしね。
「どうする?」
シャルの問いにちょっと考える。
「接近戦を挑むしかないな」
だからといって、壁の中から飛び出すのも芸がない。
「イシュル。しばらく、ここの維持を頼む」
「はっ!」
壁の中心にノマとシャルを呼び寄せる。
そこで〈隆起〉を使って、俺たちの立つ地面を5米ほど下げた。
「ははーん。坑道作戦ってこと」
シャルの言葉に頷いた。
「そういう事。包囲した連中の背後に、坑道を使って更に回り込む。性格がいいだろ?」
穴の中で薄暗い中、ノマがニヤリと笑ったのが見えた。
〈掘削〉を使って地面の下を通り、ゴブリンたちの背後に回ると、気付かれることなく、地上へと戻る。
最近、要塞山の地下を掘りまくっていた事が役に立った。
こうなると、不意打ち3点セットの独壇場だ。
矢を射る事に夢中になっているゴブリンたちに背後から近寄り、一撃で倒す。
いつもと違うのは、ゴブリンたちが弓の他に剣を持っていた事。それに攻撃する直前に、俺たちに気付く奴がいた事だ。
剣は、ほとんどが手に取る前に倒しているので、問題はない。だが剣を使える知能があるというのは、見逃せない。
プティの例でも分かるように、刃を立てないと攻撃力が激減する剣を使うというのは、それなりの知能と訓練を必要とする。
しかもこのゴブリンたちは、同じように訓練を必要とする弓矢を使っているのだ。
弓矢や剣を用意する事ができる、ということを含めて、明らかな知性とそれに伴う組織化があるという事だ。
さらに、直前であっても俺たちの攻撃を察知できたということは、能力自体も向上しているのだ。
「いよいよ、魔王軍の主力が登場かなー?」
ゴブリンたちを半分ほど倒し、出来た空隙からイシュルたちが突破を行った。
これで完全に包囲態勢は崩れて、俺たち3人は一息付いている。
「主力?プティたちより弱いのに?」
シャルの言葉にノマは否定的だ。
確かにプティはシャドーボアに騎乗して、チャージをかけてきたりする。
負ける事はないが、結構肝を冷やすこともある。
それにアルファやプティは、最近簡単な魔法も覚え出した。
そう考えると、今回のゴブリンは主力というには、ちょっともの足りない。
「どっちにしてもレベルは上がってきている。油断できないよ」
俺の言葉にノマたちも頷く。
「下手に元から強いランクの魔物より、弱いランクの魔物がレベルを上げて知恵やスキルを身につける方が、厄介」
全くその通りだ。
とりあえず、ここでは勝利を収めたけれど、これからは大変かもな。
この時は、真面目にそう思っていたのだった。