98 激突
受動的な立場を我慢する代償とやらで、一晩中絞りとられてから、3日たった。
いや、一晩中じゃないな。それからも継続的にに絞り取られている。
少し運動して発散した方がいいんじゃないかということで、魔樹の森に嫌がらせ攻撃に入る事にした。
なんというか、こんな理由で狩られる魔物たちが哀れだ。
理由はともあれ、準備は万端に整える。
矢や予備の武器、念のための回復薬に、防御石の予備。忘れちゃいけない真木の若木に真木用の防御石。
準備した物の大部分がマイダンジョンに置きっ放しというのは、ご愛嬌だが。
全くマイダンジョンと自由に行き来できるというのは、途轍もないアドバンテージだ。
「えへん」
はいはい。もちろんココアさんのお陰でございます。
冗談半分に言ったが、今の俺の能力の大部分は、ココアのおかげだ。
ココアに出会わなかったら、俺はせいぜい腕の立つ尖兵で、開拓村周辺をウロチョロしていたに過ぎないだろう。
そして、やがて来る魔王軍の侵攻に押し潰されたに違いない。
そう考えると、ココアには感謝しかない。
「いや、そんな正面切って感謝されると…。わたしだって、前のマスターのままだと、どうなってたかわかりませんし」
脳内で、ココアがクネクネ悶えているイメージが浮かぶ。
「だいたい、出発前にこんな事言ってると、まるで最終回前みたいじゃないですか」
まーた、変な事言い出した。
昨夜もベッドヤクザがどうのこうのと、うるさかったし。
とりあえず、無視して出発する。
面子はいつも通り俺たち3人と、最近は「最初の6人」と呼ばれる事の多いシモベたち。さらに、旧1層組から5人参加している。計14人となかなかの人数だ。
マイダンジョン経由で前回撤退した地点に出る。
真木を植えて、防御石で守っている地点なので、ちょっとした安全地帯になっている。
安全地帯になってはいるが、防御石の防御範囲を囲むように魔物は多い。
真木を邪魔に思う周囲の魔物が集まっているためだ。
その集まっている魔物たちをまずは狩る。
これで、この場所の周辺にいる魔物は、ほぼ狩った事になるので、ここの真木はしばらくは安心だ。
しっかり根がついて、瘴気を本格的に吸収し始めれば、魔物は近付くことも困難になるはずだ。
倒した魔物の処理も終わったところで、移動を開始する。
密生している魔樹を一々倒していては、移動もままならないので、15分程移動しては、魔樹を10本程倒している。
ここでできた空き地には、真木は植えない。
これを数回繰り返して、最初の場所から1粁ほど離れた場所で、範囲魔法をぶっ放す。
そうしてできた、直径50米程の空き地に真木を植えるのだ。
だが今回ばかりは、そう簡単にいかないようだ。
真木を植える準備をしているところで、魔物の群れを探知した。
しかも
「囲まれた?」
そう。シャルの言う通り、魔物たちは俺たちを取り囲み、その輪を縮めるように接近してきている。
数は100を超える。
「ずいぶん組織的な動きだな」
全員に警戒を促す。
包囲という行動もそうだが、俺たちに気付くや否や、突撃してきた今までの猪突猛進振りも見えない。
かなり不気味だ。
魔物たちは、範囲攻撃魔法でできた空き地の外縁、魔樹の切れ目まで来たようだ。
だが、いまだに突撃して来る様子はない。
木陰に隠れて、こちらを伺っているようだ。
俺たちも、大まかな居場所はバレているとは言え、不意打ち3点セットは使用している。動きを抑えていれば、ぼんやりとした認識でしか確認できないだろう。
「どう動く?」
ノマの呟きに応えるように、事態が動く。
全周から一斉に矢が放たれたのだ。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
今回で累計100話を突破し101話目に突入しました。
みなさまに読んでいただいたからこそ、飽きっぽい私が続けられたのだと、感謝しきりでございます。
これからも、みなさんに少しでも面白いと思っていただけるよう、頑張ってまいります。
なにとぞ、宜しくお願いします。