97 ゴレム君の1日
私の名は、ゴレム君。
君までが名前だそうだ。
我が主人、偉大なるダンジョンマスター デレク様にダンジョンの管理を任されている。
主な仕事は、畑の手入れだ。
我が主人のダンジョンは、まだ1層のみだが、広さは半径20粁を越えている。
北部に小高い山を持ち、そこから南に川が流れ、中心部を通って南の湖に流れ込む。
山、森、平原、湖と変化に富み、我が主人のセンスが光る地形だ。
私が手入れをする畑は、中心部の川の両岸に広がっている。
最近は食料となると作物だけでなく、綿や亜麻や紅花といった作物も育てている。
そういった作物の加工も私の仕事だ。
更に真木の若木を育てたり、旧ダンジョンで使う大量の矢の生産も重要な仕事だ。
忙しすぎて、この身を横たえる暇もない。
ゴーレムだから、寝る必要ないんだけれど(ゴーレムジョーク)。
もちろん、他の眷族やシモベのみんなも暇があれば手伝ってくれるが、彼らには旧ダンジョンの攻略という重要な仕事がある。
マスター自らに生み出され、このダンジョンの管理を任された私が、他の手を必要以上に煩わせては、どの面を下げてマスターにお会いする事が出来るか。
もちろん、偉大なるマスターは、出来もしない事を部下に命令するような方ではない。
ちゃんと仕事をこなせる能力を与えて下さっている。
例えば、四元魔法。
私はゴーレムの身でありながら、四元魔法を駆使できる。
声を出せないながら、胸の部分に文字を書いて、こうやって会話ができるのも、地魔法を使える故だ。
本当は風魔法を使えば、声を出せるのだが、ゴーレムたる者「ま゛」以外の声を出さないのが粋だ、と教えていただいた。
ダンジョンコアのココア様によれば、それがダンジョン界の伝統だそうだ。
その伝統では、ゴーレムに命令を下す際の正式な衣装は、赤いネクタイと半ズボンだそうだ。
ネクタイというのが幻の衣装なために、未だ正式な衣装を身に纏ったマスターから、命令を承ったことはないが、その日が来る事を想像すると命石が高鳴る。
少々話が脱線したが、私は四元魔法を駆使してマスターのご命令を果たしている。
こうやって、分身ゴーレムを作って作業をしているのもその一環だ。けして兵隊ごっこをしているわけではない。
分かってくれたかな?小さき同僚よ。
ん?
マスターがどこにいらっしゃるか?
先程、シャル様とノマ様に両脇を抱えられて、「最初の6人」の眷族の女性たちを引き連れて屋敷に入って行かれたぞ。
結界や防音魔法を使われたようなので、中は伺えないと思うがな。
そういえば、あの時ココア様が「どなどなどな」ともの悲しいメロディを陽気に歌っていたが、あれはなんだったのだろう?
おや、小さき同僚よ。もう行くのかね?
なに?「ゴブリンだから、字は読めなかったけど楽しかった?」
字が読めないのに、良く私のいってる事が分かったな。「ま゛」しか声に出てないが。
なに?なんとなく?
すごいな、君。
ココア「マスターが、女性たちに連れられて屋敷に入ったら、翌朝に『昨日はお楽しみでしたね』というのが作法」
ゴレム君「ま゛」