まるかる
「また脱ぎ散らかして。」
帰ってくるなり学生服と鞄を放り出し、探し物を始めた息子。
「お母さん、リモコン知らない?」
「知らないわよ。いつも見えるところに置いておきなさいって言ってるでしょう。」
「えーっ。」
「それより学生服と鞄を片付けていらっしゃい。」
「ごめん、後でやるから、見たいテレビが始まっちゃう。」
もお、部屋の隅っこで丸かっている靴下を、ため息をつきながら拾い上げようとかがんだとき、炬燵の布団から顔をのぞかせる黒い物体を見つけた。
息子がお探しのブツは、こんなところでぬくとまっていたのね。
ふと見れば、背を見せて床に広がる学生服。
手には、黒いリモコン。
裏面は、単色で、それこそ本当に真っ黒。
ふむ。
おもむろに、拾ったリモコンを裏返すと、学生服の上に置く。
これで良し。
丸かった靴下を洗濯機へ放り込むべく部屋を出ようとして、息子に呼び止められた。
「ねーお母さん、本当にリモコン、どこにあるか知らない?」
「お母さんは、いつも見えるところに置いてるよ。」
「んーどこにあるんだろう。」
「まあ、あんたには、絶対に見つからないところかな。」
お読みいただきありがとうございます。
お母さんのお茶目、いかがでしたか?
ずっと夢だった、あこがれのセリフを、ついに使うことが出来ました。
ミステリーがお好きな方には、きっとこの気持ちはわかっていただけると思うのです。感無量です。
保護色の黒は陰影も目立たず立体感がないので、本気で見つかりません。一度お試しあれ。
心理的な盲点をつく隠し場所、裏返すだけの工程、丸見え状態の隠し方、我ながら会心作です。