其の9 木藤
九尾が中に浮いた。
「軍隊共、わたしの炎で解けるが善い」
「まずい!砲炎を吐く気だ!」
佐助と武角が、特大の燃える手裏剣を数枚同時にお見舞いした。
九尾の首と顔に刺さった。
「ぐわああああーーーー」
顔が上を向き、砲炎は天に向かって放たれた。
「九尾、もう一度やってみろ。またお見舞いするぞ」
「あ!あれは?」
木藤が其処に立っていた。
「殺されるぞ!佐助、彼を守れ!」
「はい!」
佐助が木藤の前に立ちはだかった。
九尾が睨んだ。
「貴様~!神社の小僧だな!」
木藤は脇から神鏡を取出した。
「木藤刑事!」
「須佐さんよ。此れだろ?」
「そうです。よく持っててくれました」
「処で、彼処に居る忍者と大和民族のガキは何だい?」
「須佐の族長と須佐之男さまです」
「あの時代錯誤の格好のガキが須佐之男?何で須佐之男がガキなんだ?」
「そんなことより鏡を」
其の時、木藤に向かって九尾が砲炎を吐いた。
ぐわあああああーーーー!
佐助は木藤を後ろに、刀で身を挺した。
砲炎は2つに別れて列した。
「す、凄い熱だ・・・」
「数千度はある炎です。人間など骨も残らない」
「佐助さん、倒せるか?」
「・・・・傷つけるのが精一杯です」
「こんなものが、古代に暴れたわけか・・・人間など、ひとたまりもないな」
「一国が崩壊するわけです。木藤刑事、そうなる前に此処から奴を出してはいけない!本領を発揮仕出す」
「あんな化け物・・・」
「木藤刑事、鏡だけでは駄目なんです」
「知ってるさ」
2人は頷いた。
「九尾!あの時、お前は慌てたな。親父からどうしてか?聞いた」
「なんだと?!」
木藤は鏡を前に翳し、九尾に向かって祈禱を始めた。
呪文らしき事を呟いている。
九尾は顔が強張り、動けなくなった。
すると鏡から小さな竜巻と雷雲が立ち籠めた。
「小僧ーーーーー!!」
狐が苦しみ出したのである。
「何だ?何が起きている?」須佐之男達は唖然とした。
其の竜巻と雷雲が九尾に向かって行った。そして九尾を取り巻いた。
「うあがあああああああ!!」
身体に付いていた顔達が次次に吹き飛ばされた。
ひゅーーーーん、しゅぱーーーん!
「む、無念!!!!ぐわあああああーーーーーー」
どどどどどどどーーーーーー!
素志て九尾が鏡の中に吸い込まれて行った。
静寂が戻った。
「木藤刑事、あなた・・・・」
「親父に九尾を封じ込める祈禱を子供の頃、教え込まれたんだ。玄翁和尚が作った九尾狐封じ込めの祈禱だ。とは云う物の信用はしていなかったよ」
「凄い・・・・」
「鏡から殺生石に転移される。元居た所に封じ込められるそうだ」
「木藤刑事?僕は須佐之男。彼は須佐族長・武角。ありがとう」
「古事記に云う、健速須佐之男命?あなたは八咫烏・武角身命?」
「そうだよ」
「本人だというのか?」
「そうだよ」
「まてよ。其処までとなると、さすがに信じられない。まあ、信じたとしよう、武角さんは豪気そうでわかる。しかし、何故?須佐之男が子供なんだ?」
武角と須佐之男は、顔を見合わせ困っていた。
「須佐之男殿!」
「やあ、阿倍の陰陽師。我らは無事だが多くの犠牲者が出た」
「外もです。木藤刑事、陰陽師も真っ青ですよ」
皆、外に出た。
「須佐之男!」
「先生、無事だったね」
「木藤さん」
「木藤・・・」
「警部、合田、署の皆も僅かだが生き残ったか」
「木藤、何が起こった?大狐や餓鬼は・・・?」
「封じたからもう出ません」
「封じた??????」
「警部、此の2人は健速須佐之男命、須佐族長・武角身命」
「健速須佐之男命、須佐族長・武角身命?」
「信じられますか?」
「信じる・・・・2人とも光り輝いている。尊いお人たちだと云うのがわかる」
皆、彼らにひれ伏した。
「佐助殿」
「将軍。消防を呼んでくれたまえ」
「消防が来るなら我らは引き上げよう」と須佐之男が武角に云った。
「けど、直ぐにすることがあるんだ」
「すること?」
「殺された人達を生き返らせる」
「須佐之男、そんなこと、出来るのか?」柳田が驚嘆して聞いた。
「大昔からやってるよ。限界はあるけど、魂が其処らに漂っていれば出来る。狐は魂を喰ってると云ったろ?封じ込めで奴は人間の魂を置いて行った。つまり、此処には魂が沢山あるんだ」
須佐之男が大きく上に手を広げた。すると其処に小さな沼の一部が表れた。
「此処は父上が顔を洗った場所だ」
「父上?伊邪那岐命か?」
「うん、此処は再生、生み、不死の場と呼ばれる」
「古事記の説話だな。其れは何処だ?」
「教えられない。此処の水を人間の全身に浸すと不老不死になる」
「ええ!!」
「先生、此の水は須佐部落にもあるんです」武角が答えた。
「須佐のあなた方が長寿な意味がわかった気がする」
「少々の水なら傷を癒したり、多少の水なら死人を再生させることが出来る」
「つまり?」
「狐に殺された人達を人間に戻せる」
「なんと!しかし、肉体は消滅してるぞ」
「魂があれば生前の記憶から再生出来る。外に二体、餓鬼がいるだろ?」
「ああ」
「あれは火下夫妻だよ」
「火下夫妻?!」
「あの侭ではあまりに不憫だ。だから二人には気を失う程度の雷を当てた。さあ、此の水を汲んで掛けてあげてください」
火下夫妻だと云う餓鬼に掌から其の水を掛けた。すると。みるみると元気な人間になった。
「凄い・・・信じられない・・・・」
「此処は?此処は何処?」
「もう大丈夫。あなた方は元に戻りました」
「・・・でもあの人達はもう元の場所には住めないだろう」
バラバラにされた署員たちも再生された。
「問題は九尾の中に居た人達だ」
「須佐之男、数千年前の人々を生き返らせても・・・」
首だけの者達は表情が晴れやかだ。
「須佐之男様、貴方は荒神などではない。高貴な神でした」首たちが須佐之男を讃えた。
「中国や印度の人達も僕を知ってるの?」
「知っていますとも。あなたは阿修羅や羅睺とも習合されています」
「云いにくいんだけど・・・・」
「わたしたちは解っています。穏やかな天に昇った方が善い」
「わかりました」
「謝謝」
「署長・・・・」
「須佐之男殿、やりましたね。木藤、ありがとう。市民を守れた。わたしも天に昇りたい」
木藤や合田、忌部、署員たちが敬礼をした。
そして須佐之男が草薙剣を大きく廻した。
其の上に天に向かって光の渦が出来た。
すると首たちは其の渦の中に巻き込まれて天に飛翔した。
「天の光が視得る。光だ・・・安らぐ・・・」