其の8 封じ込めの首
「屋根が邪魔だ!」九尾狐が天井を破壊した。
ぐわあああああーーーーん!
二階の色色な物が落ちて来たが、空間は確保した。
佐助がロケット弾の如く九尾狐の後に廻った。
其の時、九尾狐が身体から物凄い数の餓鬼を出して来た。
「馬鹿め、そんな物が我我に効くか!」
「狙いはお前等ではない・・・」
数千にもなる餓鬼が外に出ようとしている。
ギャアギャア、ギイギイ。
「外の人間たちを襲う気だ!佐助、薙ぎ祓え!」
ブオーーーン!バサーーーッ!
「須佐之男殿!無理です。根絶やしは出来ない。数が多過ぎる」
「しまった!!」
「拙い!」外に居た陰陽師が云った。
署の玄関から、うじゃうじゃと重なり合って餓鬼が襲って来た。
「何だ?あれは?」
すかさず、軍が突撃を開始した。
「署員を遠のかせろ!重器が使えない!」
戦車まで出動していた。
「は、早い!」餓鬼が疾風の如く飛んで来た。
軍が機関銃を乱射した。
バリバリバリ!ズガーーーン!
「数が多すぎる!対応出来ない!う、うわあああああーーーーー」
ライフルを持つ軍人達に餓鬼が飛びついた。あっと云う間に兵士は餓鬼の固まりにかみ殺される。
陰陽師が手から砲炎を放った。
ぶああーーーーー!
ピエーーーーー!
餓鬼は大方、焼けて消えたがまだ多くがいる。
「結界を敷こう」魔法陣を地面に浮かび上がらせた。
しかし、魔法陣が効かない。ゾロゾロと中に入って来た。
「結界が効かない!」
「うわあああ!」警官達を襲い始めたが、彼等は咄嗟に銃を撃った。
「キキイイイ!」餓鬼には銃が効いた。撃つと消失する。
「倒せるぞ!」しかし、オゾマしい数である。間に合わない。
「祝詞を蒔こう」
バサバサ!
「此れも効かない・・・こやつ等・・・妖怪では無いな」
警官達が次次と襲われ、噛み殺されて行った。
「うぎゃああ!助けてくれーーーー」
陰陽師は自分を襲う餓鬼は手からの気功で絶やしたが、其れが精一杯だ。
「皆殺しになる・・・」
其の時、須佐之男が空中からゆらりと表れた。
「須佐之男殿!」
「草薙!」そう云うと草薙剣を天に翳した。すると剣が雷光を発し、幾筋にも分かれて全ての餓鬼を襲った。
バリバリバリ!キキイイイイイ!
餓鬼は全て消失した。いや、倒れて動かない二匹だけを残して消えた。
そして直ぐさま、須佐之男も消えた。
「善かった。町に出て行ったら其れこそ地獄絵図だった」
半数が生き残った。木藤も柳田も警部も傷ついた。署長は噛み殺された。
「こんなことが・・・こんなことが・・・」半泣きである。
「大丈夫ですか?皆さん」
「陰陽師殿!」
「木藤刑事!」
「鏡を取って来た。な、何だ?此れは?・・・署長が・・・・」
「これ以上、犠牲者を出したく無い」そう云うと木藤は署内に奔り去った。
「木藤刑事!九尾が!」
「木藤さん!木藤さーーーん!」合田が叫んだ。
署内では佐助と須佐之男が火炎の中で九尾狐と闘っていた。
ズバッ!斬っても其処から新しい肉が生えて来て身体を再生する。最早辛うじて狐に視得る程度の化物になっていた。
「こやつの致命傷は何だ?此の神剣草薙で斬っても消滅しない・・・」
ウガゥ!ウガッ!妖狐が身悶えた。
「何をしている?・・・あ!!」
ゴボッ!モコモコ・・・。狐の身体から人間の顔が幾つも出て来た。其の顔達は皆、哀しい顔をしている。泣いている。
「苦しい・・・助けて・・・助けて・・・」
「うう・・・く、苦しい・・・」殷の民衆と思われる者も居た。いん
「此れは、殺された人々?!」
「そうだ、阿修羅。妃妲己の頃より、数千年もの間、わたしの身体の中に棲む者達だ。魂を牛耳っている。怨念と絶望の魂だ」
「あの餓鬼等もそうだな」
「気付いたか?そうだ、あれも元人間よ。感情も姿も破壊された、只、空腹に人肉を喰う餓鬼だ。先程から殺した者、外で噛み殺された者も飲み込んだ」
「貴様~~~」
「斬れるか?此のわたしを?此の者達も死ぬぞ」
「やめてくれ、お願いだ。おれたちが死んでしまう・・・」
「苦しい・・・でも死にたくない・・・」
「須佐之男殿!」
「武角、佐助、まて!動くな」
「彼等を殺したら魂は魔の世界に昇るのよ。地獄と同じぞ。そうよ、阿修羅。留まるも地獄、殺すも地獄よ」
「く・・・」
「うううう・・・苦しい・・・助けて・・・」
「あっ、あの顔は!・・・・」
署長の顔が浮かび出て来た。
モコモコモコ・・・。「捕われてしまった・・・もう駄目だ・・・」
首が見付からなかった佐藤の首も其処にあった。
「な、何故?こんな姿なんだ?俺は・・・」
火下夫婦の首も出て来た。
「ううう・・・あ・・・」
「扨、阿修羅、お前等も喰ってやろうか。わたしの身体の一部になれ。阿修羅を抱くってのも中中、乙なものだ。お前の力を吸収してやる」
「須佐之男殿!」
「佐助、狐から此の者達を離さない限り救えない!」
どかーーーーん!
其の時、外から戦車が砲を撃ち、九尾の背中に当たった。
背の首が吹き飛んだ。
ぐあああああーーーー。
ぼたぼた。
「い、いけない!撃ってはいけない!」
佐助が外の軍に手で合図した。
其の砲撃で玄関先に居た木藤も吹き飛んだ。
「軍め、ハチャメチャだ。俺らまで殺す気か?」
署内は瓦礫と火、死体の山だ。中々前に進めない。
「九尾め。俺が視た時より化け物化している。な、なんて魔物だ」
「俺たちに何が出来る?・・・・」
最新の武器や重器を備えた軍隊が手が出せない。
ぐわあああああああぉぉぉーーーーーーーん!
九尾が天に咆哮した。
避難した市民たちは唖然としている。
「あ、あそこで何が起きているんだ?」
皆、恐怖に怯えた。