其の7 玉藻陽子
署では迎え撃つ用意が早急に整った。が、此の時代、警察官全員とは行かない。警官はサーベルである。
「江戸時代じゃあるまいし、サーベルか・・・・そんな化け物と戦えるか?」
多少のライフル銃が数丁、拳銃が20丁。銃弾は申し分ないが・・・。軍隊ではないから其れが精一杯だ。
「須佐殿たちは武器を携帯していないようだが?」
「警察に来るのにそんなもの持てますか?・・・わたしは此れです」
と、云うと背中に手を回し、何かを掴んだ。
「うう!」
刀が出て来た。
「ど、何処から出した?」
佐助が刀を視つめると眼が緑色になった。素志て刀が螺旋状に電撃派を出した。
陰陽師は両手を広げると其の間から火の玉が出て来た。
「ど、どういう絡繰りだ?」
佐助はこう述べた。
「軍隊を署の周りに配置させます。なんなら署内に突撃もして来ます。銃やライフルを使える署員は後ろに下がって援護してください」
「お、女一人に其処まで?・・・・」
「須佐さん」木藤は佐助に聞いた。
「俺は自宅に行って、例の鏡を取って来る」
「お願いします。其れが最大の武器です」
玄関先はいつもの通り一見穏やかそうだが、署の周りは軍が取り囲んでいる。
奥では銃砲を持った警察官たちが待機している。
暫くすると、受付を女が訪ねて来た。「すみません。柳田の身内の者なのですが」
受付で警官が応対した。無論、事件の詳細を知っている。
「柳田?柳田国雄ですか?面会は出来ません」
警官は顔を視て吃驚した。火下陽子だ!
机の下に写真が貼ってある。
すると、女の後ろから合田刑事と数人の警官が近寄って、銃を突きつけた。
「火下陽子だな」
「あら?何よ。火下陽子?何、云ってんの?拳銃なんか向けて。人権蹂躙よ!」
「いいから手を後ろに回せ」
「お巫山戯じゃないわ!」
合田が手錠をして、奥へ連れて行った。
「わたしが何をしたって云うの?!何よ!いきなり!」
「よう!」佐助が彼女に挨拶した。
「あんた、誰よ?」
「須佐だよ」
「!」
「獣臭がプンプンするぞ」
「喧しい!」女はそう云うと飛び上がり、廊下の天井にへばりついた。
「うっうわ!」
すると、手と首が伸びて警官を押さえ、首に噛み付いた。
「ぎゃあああ!」
警官はサーベルを抜くと女に刺した。ブス!血は流れているが何とも無い。周りの警官たちがサーベルを抜いた。
奥から拳銃を持った刑事たちが出て来た。
「天井の身体を撃て!」
ガーーン!ガガーーーン!
同じだ。血は流れるがウネウネと動いている。
「痛いじゃないの!」
警官の首を喰い破り、放った。其れを傍に居た警官が受け取った。
「う!うわわあ!首!首!」
「下がれ!」合田は狭い廊下では不利と視て、部屋まで退却した。
奥からライフルを持った者が、ドカドカと出て来た。
「うう!」天井に身体を張り付け、首と手を轆轤首の如く伸ばし、ウネウネ動く様は、人間では無い。
「何だ?此れは?!撃て!撃ちまくれ!」
ガーーン!ガガーーーン!ガーーン!ガガーーーン!ガーーン!ガガーーーン!
ライフルで撃つと肉片が飛び散った。が、動いている。一人の警官がライフルで至近距離から顔を撃った。半分吹き飛んだが、それでも襲って来た。其の警官は二本の手で身体を裂かれた。ドサッ!身体が二つに別れて落ちた。
「うわああああ」
半分吹っ飛んだ顔から狐の顔が出て来た。
「怯むな!撃て!撃て!」
ガーーン!ガガーーーン!ガーーン!
幾人もの警官が惨殺されていった。
「無理だ!悪魔だぞ!こいつは!」
大きな手裏剣が飛んで来た。
ヒューーーン、スパーーーン!女の手を裂いた。
佐助だ。手裏剣は彼の手元にブーメランの如く戻って来て消えた。
「狐!」
「皆さん、故知等に!」陰陽師が呼んだ。
署員達が陰陽師の周りに集まると呪文を唱えた。周りに防護電磁幕が表れた。
「貴様等ーーー!」女が彼等を狙って口から砲炎を吐いた。ズサーーーー!シールドに守られている。
「視ろよ・・・」一人の警官が机の上を視て、云った。
「炎を浴びた鉄の本棚が融けてるぜ・・・・」
須佐之男と武角が空から現れた。
「狐!見苦しい格好だな」
「阿修羅ーーーー!!」
柳田はシールドの中にいた。「須佐之男、武角さん!」
「こ・・・此れは・・・」合田、署長、警部たちは開いた口が塞がらない。「何処から出て来た?あの小僧と忍者は何者だ?」
首と腕がニョロニョロと伸び、手も片方が無い女が、殺した警官達の屍上に馬乗りになって呻いていた。其処ら辺に千切れた腕や首が転がっている。部屋は火の海で血だらけだ。
須佐之男が牝狐に問いただした。
「襲うなら、わたし等だろう?お前とは天地の違いのある天狐族とわたしだろう?先生がお前達にとって、其れ程、厄介か?」
「奴は危険だ。光を持っている。其処に同類が集まる」
「同類?」
「同類だ。光は全てのものの希望だ。我もだ。阿修羅よ。お前は光の種族だな」
「太陽族と云われている」
「古代からの人間たちの信仰を視よ。(全ての恵みを太陽・・・光が与えてくれる)・・・と。人間族の信仰は皆がそうだ。物質的な光、精神的な光。我は闇の種族だ。遠い昔、其処に追いやられた。我我も光が欲しい。此の世界が欲しい」
「忌まわしい妖力や殺略で奪おうとすれば、抹殺されるさ」
「阿修羅よ、何故?そう人間に加勢する?」
「光を持つ者には其の価値がある」
「阿修羅、火は俺達のものだ。其れを人間たちも古代、利用した。飛躍的に知恵が進歩した。生活に、闇を照らすために、身を守るために、火は欠かせなかった。其の火を彼等は武器として(火力の増大)に手を染める。其の欲は限りが無い。此の國も他種族を攻め入るだろう。日輪、日の丸、現人神を利用してな。全人間族は最終的には三千世界(宇宙)をも巻き込む・・・愚かなものよ。火は熱と光だ。熱で殺し合い、破壊に夢中になる」
「呪いをかける気か?」
「呪い?人間が堕落する手助けをしてやるのさ。素志て能無し政治家が國の天に上る。時代が下ればどんどん加速する。百年もかからず自滅するぞ。だが、云っておく。高天原をモデルにした此の美しい世界を破壊していくことは許さない。其の時は世界の全魔族が人間を抹殺する」
「わたしたちも他族とお前らを阻止する」
「聖書に云うハルマゲドンだな。お前たちが勝つとされている。いい気なもんだ。其処までの未来は誰にも解らないのにな」
「お前は、魔は、物質的な光だけを求めるのか?だから神から堕落するんだ」
「美しいものだけだ」
「心を探るくせに人間を理解していないな」
「臭いことを云うな、阿修羅が!」
須佐之男は草薙剣を抜いた。剣の周りを雷雲が螺旋状に取り巻いている。
佐助は空中から燃え盛る刀を出した。
「佐助!武角!狭い部屋の中だ。刀を引っ掛けるな」
「解ってます」
女が呻き始めた。
「うがああああ」
身体が裂け、中から九尾狐、そのものが表れた。大きい。
「あ・・・あれは・・・伝説の九尾の狐?・・・」署員たちが口々に云った。信じられないと云う顔だ。
「皆さん、此処は危険だ。此の侭外に移動します」安倍の陰陽師がそう云うと瞬間移動をした。署員たちは署の外に出た。