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須佐妖戦帖 第3章 「妖狐の傀儡」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の1 奇妙な事件

其の日の夜は貪よりと曇っていた。

捜査一課刑事・木藤きとうは、車で現場に向かっていた。東京文京の住宅地である。

「女が破裂した?」

「そういう知らせです」と相棒の合田刑事が答えた。

「・・・・」

木藤は既に考えられる事を思いあぐねていた。

「そんな残虐な事件では付近住民たちが脅えているだろう・・・」


現場に着くと辺りはパトカーや所轄警官、鑑識やらでごった返している。

「木藤です。遅く成りました」「木藤刑事、合田刑事、此方こちらです」

所轄警官が呼んでいた。其の場をビニール幕で囲んで外から視得無いようにさえぎっていた。

警官たちを掻き分け、其の場に行くと布で足から上をかぶされた女性が塀に倒れ伏している。廻りは血だらけだ。肉片、内蔵の一部などが飛び散っていて上半身の一部が塀に寄りかかっていた。

木藤は布を剥いだ。「こ、これは!?」

胴体から上が無い。肩から上首が残っていて折れた背骨で支えられていた。其の他の身体の部分の損傷は無い。上部分がズレて下半身に乗りかかっていた。

大砲で至近距離から撃たれた様な破壊である。

大砲で撃たれたなど、馬鹿げた事だが、もしも撃たれたのなら焼ける筈であるが、綺麗なのである。しかも大砲なら後ろの塀も破壊されている筈である。第一、とてつも無い音がする。

「何か鋭い大きなもので力強く突かれたのか?其の凶器は何処だ?」


「佐々木さん、どういう事ですか?」

木藤はベテランの鑑識・佐々木に聞いた。

「木藤ちゃん、不可思議でしょ?何かの凶器で突かれた殺人事件とお思うかい?」

「違いますか?」

「よく視ると中から爆発した視たいなんだよ」

「中から?そうだ、知らせでは破裂した・・・と・・・」

「ええ」相棒の合田はそう答えたがボー然としていた。

「では、小型爆弾か何か飲み込ませて爆発させた?厭、其れでは身体が焼ける・・・。大きな音もする。近所住民が気づく。死亡推定時刻は?」

「約3時間前って処だね」

「6時頃か。夕方ですね。目撃者は多いのでは?家に居ても何か音を聞いているでしょう?」


「所轄の田中と云います。まだ其れ程では無いんですが近所に聞き込みをして来ました。何も音らしきものは誰も聞いていません。目撃者は会社帰りの近所の男性。目撃は7時頃。半狂乱です」

佐々木が「木藤ちゃん、しかも此の遺体は折れてはいるが、背骨が綺麗に残っているんだよ」

「何故ですか?」

「解らんよ。詳しく調べないと。木藤ちゃん、オフレコで聞いてよ」

「?」

「俺が思うに、中から何かが蹴破った・・・だから、音もしないし、遺体の穴が奇麗なんだ」

「中から何かが?何かって何がです?」

「解んないよ。・・・でも何かが・・・だよ。此の痕跡は中から破裂している」

「何故?」

「無論、此の遺体の状況・・・其れと此の股間の辺りの痕跡」

「血塗れですね」

「血に塗れた中にある跡が視得るかい?」

「あ!」

確かに何かの跡、血塗れの地面の中にわずかに残っていた。

「此の痕跡は何だと思う?」

「何だ、此の形は?此れは足跡?動物?人間?其れに痕跡は此の場しか無い。周りの地面にも、塀にも無い・・・」

「わからん。兎に角、此処の跡も写真を撮っておくよ」

「ふうむ・・・・」

木藤はふと思った。「何かが出て来て何処かに逃げた?・・・逃げたのなら何故、此処しか無い?」

「木藤さん、此処ら周辺を視て来ます」合田は所轄警官と痕跡を探りに行った。

「おお、頼むぞ」木藤は他殺だと直感した。

「犯人が居る。何か仕掛け(トリック)を使ったようだ。目的は何だ?厄介な事件になりそうだ」



折しも柳田国雄は其の近所の借家に住んでいた。長谷川教授に頼まれたレポートを作製していた。

長谷川は大学の学長になった。「先生、偉くなっちゃったなあ」嬉しさの反面、自分みたいな者がうろちょろしてて善いのか?とも思ってしまう。彼が尊敬した小泉八雲は故人となっていた。「あの後、小泉先生から色々なアドバイスやお話を聞かせてもらった。幸せだった・・・」

研究を続けなさい・・・そう云われて嬉しかった。

御上にも会った。会ったが頭の中が真っ白になって、半分気絶状態だった。「柳田先生、お話を聞かせ願えますか?」御上にそう云われただけで本当に気絶してしまった。何も覚えていない。付き添いで来た長谷川が其の後応対したらしい。


こんこん!

誰かが戸を叩いた。

「こんな遅くに誰だ?」

外には先ほど殺された女性が立っていた。

「はい、はい。今、行きます。何方ですかぁ?」



柳田が戸を開けて外を視ると、見知らぬ妙齢な美しい女性が立っていた。

「綺麗な女性ひとだな。」柳田は満更まんざらでもない。

阿鼻あび大学の柳田先生のお部屋ですか?少々お尋ねしたい事があり、失礼とは思いつつお邪魔致しました」

「はい、柳田ですが、貴方は?」

玉藻たまもと云います」

「どんなご用件で?」

「私、例の戸場村出身の者です。数年前の事件で誰も知り得ないことがあるんです。とても重要なことです。其れをお話に伺いました」

「戸場村の?誰も知り得ないこと?・・・あ!兎に角、中に入ってください」


戸場村とは八岐大蛇と戦った場所である。事件後、大蛇の証拠は何も残されていなかった。


(参照-蠢く闇)


「お邪魔します」

「こんな綺麗な女性を部屋に招き入れられるとは・・・・」柳田は内心、ニタニタしていた。「独身かなあ?」

「汚い部屋で申し訳ない。男寡婦やもめですから。お茶でも出しますので」

「善いんです。すみません」

「どちらからいらしたんですか?」

「栃木県の那須野町です」

「那須!其れは遠くから。で、どういうご用件で?」

「此れを視ていただきたいんです」と云い、腕を捲くって差し出した。

「ん?」

「視ててください」

暫く視ていると、腕から金毛がえてきた。「うっうわ!」

そして服を剥ぎ、腹を出すと、へそから小さな餓鬼が、ぞろぞろと這い出て来た。「うっうわああああ!」

柳田に餓鬼等が飛びかかって来た。キイキイキイ!「やっやめろ!」

「はっははははーー柳田ぁ!覚悟しろ!」

女は人の声とは思えない声を発した。「き、貴様、何者だ!」


其の時、部屋の端の空間が揺らいだ。

空間の中から須佐の童子が表れた。バリバリ!キキイーーーー!手に持った草薙剣からの雷砲で餓鬼が消し飛んだ。

ズバアーーーン!

「誰だ?貴様?!邪魔をするな!」

「須佐之男!」

「先生!逃げろ」

「須佐之男?羅睺らごうか?」

「其の獣臭けものしゅうは何だ?たちの悪い妖怪の臭いだ!」

「何を云うか。阿修羅あしゅらが!」

「正体を表せ!女狐め!此の草薙剣を御見舞いするぞ!」

「ぐわあああああーーーー!!」

女は四つん這いになり、怒号を上げた。其の姿は最早、人間では無い。


狭い六畳の部屋で戦いが始まった。

ズサーーーーン!バリバリ!

女は口から小さな妖怪らしきものを吐き出しながら、砲炎を撃って来る。部屋は忽ち火の海だ。妖怪は須佐之男に絡み付いて来る。須佐之男は祓いながら粉砕している。

柳田は這いずりながら外に出た。

「まずい・・・借家全体が火事になる。住民に知らせないと・・・」


隣の住民が気付いて出て来た。

「どうしたんですか?柳田さん」

「危ない!こっちに来ては行けない!」

「何がですか?一人で何やってんですか?」

「一人?あの音と火が視得無いんですか?」と、部屋の中を指差した。

「何が?」と中を覗いた時、バヒューーーン!砲炎が其の男の首を吹き飛ばした。

ドサ!其の侭身体が倒れ伏して柳田の上に覆い被さった。

「うわあ、うわあ!!」

「先生!妖術で人間には視得無いようにしてるんだ」

「阿修羅、覚えてろよ!」

「待て!逃げるな!」

う云うと女は空間から消え去った。


合田刑事は何も痕跡を見付けられなかった。

「木藤さん、無駄骨でした」


「おい、合田」

「何ですか?木藤さん」

「何かあっちから音がしなかったか?」

「いえ、聞こえませんでした」

「どーん!って音だ。唯事ただごとじゃないぞ。おい、視に行こう」

「ちょっと、木藤さん、此処の現場どうするんですか?まずいですよ」


「木藤刑事、何処に行くんですか?」所轄警官なども聞いて来た。

「お前ら、あれが聞こえなかったのか?」

「何のことですか?」

「何だよ。直ぐ戻る。合田、行くぞ」と、云いながら奔り出した。

「ちょっ!ちょっと。木藤さん」


「先生、大丈夫?」

「須佐之男・・・あれは?あれは・・・何だ?」柳田は腰が抜けていた。

「警察の人間が来る。御免、ちょっと消える」

「おい!まて!巫山戯ふざけるな!此の首無し死体はどうするんだ?!どう説明すればいい?」


「木藤さん、何処まで行くんですか?もう結構遠くまで来ましたよ」

「勘が騒ぐんだ。何か屯でも無い事が起こっている」

合田は呆れていた。元元無鉄砲な先輩だが、此の行動はよく理解出来ない。

彼処あそこだ」其処は柳田の借家だった。

「視ろ、二階に人が倒れているぞ」二人は鉄の外階段を上った。

「どうしました?うっ!」

首の無い死体を抱えて血塗れで傷だらけの男が部屋の外で泣いていた。

「何があった?」

柳田は震えながら部屋を指差した。

合田が部屋の中を覗いたが、争った形跡もない。綺麗なものだった。

「何があった?此の状況は一体何だ?」

「女が・・・女が・・・」か細い声で然う云うと柳田は気を失った。

騒ぎに気づいた住民たちが部屋から出て来た。

「おい、五月蝿いぞ!何を騒いでいるんだ?」

「木藤さん、どうしましょう。此の遺体・・・辺りも血まみれだ」

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