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双炎  作者: 沙悟浄
1/1

 昔、昔、そのまた昔、歌と踊りが得意な娘がいた。

 初花を迎えてから娘は、音なき声が聞こえ始めた。

 娘は、家族と暮らしていたが、音なき声について父親に尋ねた

 ところ、父親は、娘に山神の巫女として、山の奥深く一人で

 暮らさなくてはならないということを告げた。

 

 次の日から、七日かけ、家族全員で娘のための山小屋を作った。

 小屋が完成すると、父親はかなりの黍を置いていってくれた。

 娘は、泣く泣く家族を見送り、一人となった。


 山で暮らすようになってから、声なき声は、はっきりと聞こえ

 だしたが、どの声も娘の呼びかけには答えてくれない。

 食事はいつも、黍と野草の粥ばかりだった。

 ある日、娘は、御馳走をつくり、山神をお招きして、おもて

 なしすることを思いついた。


 魚を釣り、兎をとり、黍で団子をつくり、ご馳走ができ上がると、

 娘は楽しくなって、以前のように、歌って踊った。


 踊っていると、小屋の中にいつのまにか何かが居た。

 赤い目が三つ、角が二本、肌が白く巨大で人には見えぬ。


 娘は、何かに山神かと尋ねると、何かは、己はこの世のもの

 でなく、旅人だと答えた。そして、娘に歌と踊りをせがんだ。

 娘が歌うと、旅人も歌いだす、その歌声は神もかくやと麗しい。

 娘が踊ると、旅人も踊りだす、その踊りはぎくしゃくとして、

 笑いを誘う。娘は、踊りを続けられず、笑い転げてしまう。

 どうも、旅人にとって踊りは初めてで苦手らしい。


 山神ではなかったが、せっかく来てくれた旅人に、御馳走を

 振る舞った。大いに喜んだ旅人は、娘の望みを一つ叶えると

 言ってくれた。娘は、旅人に婿になってここで暮らすように

 頼んだ。


 驚いた旅人であったが、約束を叶えるために、山神に会いに

 行った。次の日、戻ってきた旅人は、目を一つ失っていた。

 驚いた娘が尋ねると、旅人はこの世に留まり娘を嫁にする

手土産に一つ山神にくれてやったという。娘は泣いて謝るが、

 旅人は夫婦になるのに、気にするな、それよりも己に名を

 つけてくれ、と言った。娘は、白鬼と名付けた。

 





 桃衛は、尋ねる。



雅楽頭うたのかみ様は、なぜ男に。」


「父の遺言なのです。

女として父の後を継ぎ、私と兄上のそれぞれを支持する者で

 家中が割れるのを防ぐためです。

本来なら、鈴鹿が男のふりをするのも、弟ができるまでのはず

 でしたが、弟はできず、初陣での活躍もあり、体が女らしくな

 ると、葛葉の異能の力を借りて男として生きておりました。

魂が女であるせいか、月のもの、の時期に男の体だと身動きも

 出来なくなるために、女に戻り、葛葉、母上、叔母上以外には、

 会いませんでした。鬼ヶ島の異能は怪力ばかりですが、珍しく

 葛葉は変化、母上は遠目、叔母上は遠耳の異能を授かりましたが

 父上と叔父上は、これらの異能を軽視しました。鈴鹿は、この

 一門衆の力を戦に使っております。」


「そして、無能の私には相談していただけなかったのですね」


「すいません。兄上にその気がなくとも、兄上を担ごうという

 ものがでるやもしれませんので。

 異能については、気づかれていないだけで、異能を持たれ

 ているのかもしれません。

 おばば様によると、初代様は百の異能を持っていたそうです。

 また、齢13程で自身の異能に気付くのが普通ですが、寿命で

 亡くなる寸前で自身の異能に気づいた者もいたそうです。」


「そんなことが。」


 狐ノ国、龍ノ国ともに初代の子孫が作った国である。

 龍ノ国にのみ、まだ異能の者がいる。

 鬼ノ国は三人の祖父の祖父の代より、血を濃くするために近親

 婚を繰り返したため、祖父の代では一門衆のほとんどが異能を

 授かったが、男女ともに武者となる鬼ノ国の慣習と、祖父の狐

 ノ国への侵攻における大敗北から、一門衆は、祖母以外はまだ

 幼かった、鈴鹿と桃衛、それぞれの父母だけが残された。

 


「それで、お困り事とは何ですか。」


「女が男に変化しても胤はないので、

 遠縁の犬丸を鈴鹿に変化させ、身代わりをさせようとしました。

 乙姫に対面したその場でなぜか見抜かれ、侍女としてそばにいた

 葛葉の目の前で、毒殺され、葛葉は鈴鹿に変化し、鈴鹿の隠れ

 場所まで知らせにきました。

 乙姫は、鈴鹿と兄上を寄越すことを要求しました。

 鈴鹿が女であることを知っているそうです。

 お願いできますか。」


 桃衛は、現状を、無茶苦茶だと感じる。

 また、相談もなかったことに怒りを抱くが、飲み下した。


「主命とあらば、従うのみです。」


「わかった、共に来い。」


 その言葉には、もう桃衛への甘えは見られなかった。




 葛葉は乙姫方侍女が一人いる、寝所の隣の間で、待つ。

 こちらでも、桃衛の立ち入りはとがめられたが、先ほど

 と同じ理由でまかり通る。 

 そして、乙姫の待つ寝所に、鈴鹿と桃衛は入る。

 犬丸の遺体は、どうゆう手を用いたのか、そこには

 無く、小柄な女がいるのみだった。


 二人が着座すると、乙姫は声をかける。


「龍宮乙姫です。末永くよろしくおねがいします。」


「鈴鹿じゃ、よろしく頼む。

 この者が、桃衛じゃ。」


 桃衛は、無言で頭を下げる。乙姫の手元から、一瞬たりとも、

目を離すことはできないが。


「さて、どうされたかな。」


「しらじらしい。鈴鹿様が騙そうとなされたのでしょう。」


 その口では、怒ったふりをしながらも、乙姫の瞳は、

 静かな海のごとく朗らかで、現状を楽しんでいた。

 

「わしが女だとしっておったくせに。

 よく言うわ。」


「まあ、済んだことは置いときまして。

 これからのことです。

 祝いの宴にて、遠縁の方々、それと桃衛殿と、お目に

 かかりましたが。桃衛殿のお胤を頂戴して、鈴鹿様の

 子として授かるのが、私の望みです。

 叶えていただければ、騙しうちは忘れます。」


 鈴鹿は、考える。乙姫のこの判断には、異能の根拠が

 あるやもしれぬ。しかし、騙しうちをした手前、同盟

 を継続するには、これを飲むしかない。


「わかった。そのように計らおう。」


 突然のさらに無茶苦茶な話に桃衛は、声も出ない。


「では本日は、鈴鹿様もこちらで御休みいただきます。

 そして、桃衛殿にはご尽力いただきます。」


 桃衛は、この世のこととは思われず、夢であれば、

 と願うばかりだった。

 

 

 

  

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