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5.偶然だから仕方がない

「初めてメインアカウントに停止処分を食らってからは本当に悩みました。

ドラクエはしたいしRMTもしたいという板挟みですね。

エンジョイプレイすればいいじゃないかという意見があるかもしれませんが、僕にとってのドラクエというのはパーティーを組んだ他のプレイヤーにドヤるためのものなのです。

だからRMTをしなくてはいけませんでした。」

ドラクエ内、いやMMORPGの醍醐味の一つに他人が持っていないアイテムや装備、称号や地位などをそれとなく自慢するというものがある。

もっと自分の凄いところを見てほしいという気持ちがそうさせるのだろう。

新しい強敵を倒した称号をすぐに付けたり、高額な課金アイテムのセットをすぐに装備してプレイヤーの多い町に行ってみたり、またゲーム外でドラクエのブログや文章を書くのも自己顕示欲の表れといえるだろう。

人は誰しも自己顕示欲というものを抱えて生きているので、そういった行為は仕方ないことなのだと思う。

ただ小山さんの場合、自己顕示する方法が規約違反というのが問題なのであるが。


「アカウント停止になる前のRMTの反省点を洗い出してみることにしました。

なぜ運営にばれたのか?何がダメだったのか?と考えてみました。

社会人になってからこんなに頭を使ったのは初めてかもしれません。

考えた結果、自分なりの考えが出ました。

それは『メインキャラクターにゴールドが触れてしまったから』というものです。」

まるで新しい学説を学会で発表する大学教授のように誇らしげに小山さんは語った。


彼の学説をまとめるとこうなる。

今までの取引では

RMT業者→小山さんの運び屋→小山さんのメインキャラ→バザーでお買い物

というゴールドの流れになっていた。

運び屋というクッションを挟んでいるとはいえ、たしかにメインキャラにゴールドが触れている状態だ。これがゴールドを追跡している運営に発見され一度目の処分を受けた原因だと小山さんは結論付けた。


「RMTの再開後はメインキャラにゴールドが触れないようにしました。

ゴールドを扱うのは自分の運び屋までにしたんです。」

工夫を施した後の取り引きの流れはこう変わった。

RMT業者→小山さんの運び屋→バザーでお買い物→タンス・モーモンバザー→メインキャラ

運び屋はゴールドのリレー役から、バイヤーに姿を変えた。


「まず業者から運び屋がゴールドを受け取り、バザーに行きます。

そこでメインキャラが欲しい武器や防具を買います。

購入した品々を自宅のタンスに無造作に突っ込みます。

もちろんタンスの権限はメインキャラのみ持ち出し自由となっていますので、【偶然】その住宅村を通りかかったメインキャラが【偶然】タンスから欲しいものを発見して自分で装備しちゃうわけです。お礼にまほうの小瓶を99本タンスに入れてあげる心配り(隠ぺい工作の一環)も忘れません。

偶然の出会いが産んだ心温まる住宅村のやり取りですから何にも後ろめたいことがありませんよね。」


もう一度RMTをしたいという欲求が小山さんの取り引き方法の巧妙さを1段引き上げることになった。


「装備以外の新ボスコインや消費アイテムは運び屋のサブの家にあるモーモンバザーに置くこともありました。

1枚20万ゴールドのコインの桁を【偶然】間違えてしまって2千ゴールドでモーモンバザーに置きます。それをたまたま訪れたメインキャラが掘り出し物だと思って購入。

せかいじゅのしずくも100ゴールドで【偶然】ならんでいることもありましたのでそれもメインキャラでばっちり購入しました。しずくも普通なら1万ゴールドはするんですけど、【偶然】購入できるなんて本当に運がいいキャラです。」

このモーモンバザーも偶然フレンド限定の設定になっていて、メインキャラ以外が購入できなくなっているのはいうまでもないだろう。


「なんでこの方法を思いついたのかというと、大盗賊騒動と詐欺バザーがきっかけなんです。」


※大盗賊騒動:BOTプログラムで動いている業者のキャラを上手いタイミングで誘うと仲間にすることができ、ルーラストーンで業者の家に行くことができる。

業者の家のタンスは持ち主がBANされた後に業者仲間がサルベージできるようにアイテムの持ち出しが誰でも可能になっているケースが多く、ルーラストーンで業者宅にやってきたプレイヤーがタンスに貯まっている高価なアイテムをごっそり頂くという本物の盗賊顔負けの行為が流行した。

また、業者が多く住むと言われている住宅地を手当たり次第訪れ、タンスからアイテムを奪うという行為も頻発した。これらの盗賊行為を大盗賊と呼んだ。

これによって一時的にBOT業者は減少したが、運営が広場でやめるように呼びかけたことで大盗賊は終息した。




時は流れ2016年2月下旬、小山さんにとって大きな事件が起こる。

仲の良いフレンドがBANされたのだ。


「私はRMTがばれるのが嫌でチームには入っていません。

フレンドもサポート仲間を雇いあう関係のいわゆる酒場フレばかりです。

でもほんの数人だけ仲良くさせてもらっていたフレンドがいて、そのうちの一人がBANされてしまったんです。」

仲のいいフレンドがアストルティアから居なくなるというのは一種の事件であるが、なぜフレンドがBANされたのだとわかったのだろうか。


「そいつは毎日欠かさずドラクエをやっているけどプレイ時間は2~3時間、そんなタイプでした。

時間がない社会人だと言っていましたね。

でも装備はめちゃくちゃすごいんです。

これと言った金策もしてなかったし、私は絶対ラムターだと思っていました。

でも僕とは結構遊ぶことがあって、今度の土日も遊びましょうと約束をした直後から急にインしなくなりました。

確証はありませんけど、ああBANされたんだろうなと思いました。」

ラムターはラムターを知るということか。

この場合、事故や家庭の都合という可能性があるものの、毎日欠かさず遊んでいた人がログインしなくなるということは何かしらの処分を受けたと考えるのが妥当かもしれない。

この一件は、小山さんの心境に大きな変化を与えることになる。



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