紅花学園
「「父さん…?」」
二人の声が重なった。
「ハハハ!久しぶり!元気してたか!?」
陽気な喋り方、声の大きさ、まさに父さん、天崎 達也そのものだ!
「なんで日本にいるんだよ!」
早速最大の疑問をぶつけた。父さんはママさん旅行の時に行方不明になった母さんを探しているはずなのだが。
「ん?ああ、あれ全部嘘だ!」
悪びれない様子で答える。
「え?ってことは母さんは?」
愛海が聞く。
「学園の保健室で毎日楽しそうに過ごしているぞ!」
「はぁ、そうなのかよかったよかった。って…なるわけないだろうが!」
俺は怒りに任せて怒鳴った。
「わ、悪かったよ…嘘をついていたのは謝るさ…」
やっと謝った。
「それで、父さんどうしてわざわざ呼んだの?父さんならギリギリまで隠すタイプだと思うんだけど?」
愛海が呆れたような口調で聞いた。
「そう!そのことな!学園が完全秘密主義なのはもう知ってると思う。だからだな、学園の敷地内にある寮に住んでもらうことにした。特に星真お前な?」
俺を指差してそういった。
「え?つまり引越しってことか?聞いてないぞ?」
「言ってないもん」
当たり前のように答えた。
「じゃあ荷物とかどうするの?」
愛海が心配そうに聞いた。
「引越し会社にやってもらっているさ今、現在進行形でね」
仕事が早い。
一つの学園を管理しているだけはあるな。
「まぁ、愛海に言うことはそれだけだ。引越しの手伝いをしてきたらどうだ?」
頼むから出て行ってくれと言っているような表情だ。
「んー…うん!わかった!行ってくる!」
空気を読んだのか、あっさりと出て行った。
「さて、本当の本題に入ろう。お前の能力についてだ。これまでその能力には何が起きた。」
人が変わったように真剣な顔で、聞いてきた。
俺は昨日から今日までの出来事を全て伝えた。
「なるほど、解説があれば覚えることができるが、先生の能力を使った見よう見まねでもその時限りに使うことはできる。そして原理がわかっていれば無意識に応用することもできて、一瞬だけだが新しく生み出すこともできる…か…」
神妙な面持ちで、考え込む。
「どうなの?父さん」
「その能力は【最弱】であり、【最狂】かもしれん。」
最狂…?そこまで狂ってるか?まぁ確かに相手の能力を覚えたり、新しい能力を生み出すんだからそう言われても仕方はないが…
「まぁいい、今日はもう疲れただろ。家は引越しで何もないだろうから愛海と俺の家に来い。泊めてやる。」
さすが父親子供の面倒見はいいな。まぁ、最初からこういう大人ではあったのだが。
さて、愛海と父さんの家に行くか。
〜父の自宅〜
父さんの自宅は、それほど広くも狭くもなく、素朴感が漂っていた。父さん曰く、こっちの方が落ち着くらしい。
「そういえばなぜ父さんは雑誌に偽名で載ってたの?」
少し気になっていたことを聞いてみる。
「ああ、あれは身元がバレないように編集者に偽名で連絡しただけだぞ。」
なんだ、それだけか。もっと深い理由があるものだと思っていた。
明日に備えて今日はもう寝ることにしよう。
父さんと愛海は起きているみたいだから、先に寝ておこう。
〜次の日〜
(ピピピピピピピピ…)
アラーム音だ。昨日設定した覚えはないが、父さんの起きる時間か?
「お、起きたのか。」
「おはよ、お兄ちゃん」
なんだ、二人とも先に起きていたのか。
今の時間は…八時半か。
「父さん、学園はどの辺にあるの?」
ここに来る時、半分ぐらい寝ていたため記憶が曖昧だった。
「ん?ああ、あれがないと行けないんだった。」
そう言いながらポケットからデバイスのようなものを出された。
「これ、何?」
愛海が興味津々に聞いた。
「生徒証でもあり、ケータイでもある超ハイテク機器、キメラデバイスだ」
ネーミングセンスの欠片もないな。ん?SIMカードとかはどうすればいいんだ?
「電話番号は専用のものだから、古い方のケータイで、友達に伝えておけよ」
そう言われた瞬間、愛海は少し俯いた。
表情を読むに、前の学校にはあまり友達がいなかったのだろう。【電撃】のせいもあるかもしれないな。
まぁ、俺も連絡を取り合うような友達はまだ一人もいなかったけどな。
「さて、行くか。」
父さんが空気を読むように言った。
「でも、道がわからないじゃないか。」
父さんは、超越した方向音痴だった。自宅に帰ろうとしているのに、スーパーに着いたり。
どうして迷うんだ、というところにも平然と迷う
「そのデバイスに写っている地図を見てみろ。」
そう言われてマップを覗いてみた。
「ん?何これ。」
そこには道を記しているであろう赤い線が引いてある。
「その線に従って進めばつけるんだよ。」
やっぱり道だったか。まぁ赤い線に従って進んでみるか。
〜15分後〜
「でけぇ…」
おいおい本当にあったよ。こんなでかい建物になんで気づかなかったんだよ…
「すごいだろ?」
ドヤ顔で鼻をこすりながら言ってくる。
「でも、なんでこんな大きい建物なのに記憶になかったんだろう…」
愛海が聞いた。
「え?覚えてただろ?」
冗談を言っているようには見えない。
「忘れちゃってたよ…?」
俺も忘れてた。うん。
「嘘だろ?」
唖然としている。顔がバカみたいになってきた。
「ま、まぁそんなことはいいんだ。」
いやダメだろ!記憶に残らない校舎なんて入学者減るぞ!?いや、もとより特殊能力者だけを集めようとしているぐらいだ。あまり多く入ってきても迷惑なのか。
「特殊能力者専門学校って聞いたけど本当に特殊能力者だけしかいないの?」
チラシに名前まで変えて記載したぐらいだ。本当かは定かではない。
「一応普通の能力者もいるが1/5いれば多いぐらいだ。」
ほらやっぱり。まぁそれでも多いほうなのか。
「とりあえず教室へ案内しようか。愛海から中等部の教室を案内しよう。星真も行くことになるかもしれないからついてこい。」
言われるがままについていったが、来ることはないんじゃないかな…
「ここだ!愛海は中等部3-Bだ、高等部には100%上がれるため、外部の学校に行こうと思わない限りは受験勉強はしなくてもいいぞ。」
そう聞いた時愛海はすごく嬉しそうだった。多分前の学校の友達は受験勉強をしているから遊べなかったのだろう。だから友達がいなかった。
うんやめておこう愛海がかわいそうだ。ついでに俺も
「さて、星真。次は高等部には案内する。」
そう言い中等部の校舎からすぐに立ち去った。
「ここだ!星真は高等部1-Dだな!なかなか楽しいクラスだ。よかったな!じゃあ、俺は学園長室に戻るから、頑張れよ!」
様子を見るにクラスを決めたのは父さんじゃないようだ。誰が決めているのだろう。
「うん、ありがとう父さん。じゃあね。」
そう言いながら手を振った。
「学園で父さんはやめろよ。授業が終わったら、部屋割りを教えるからまた来るな。」
そういえば、寮で暮らすんだったな。
中等部と高等部で校舎が隔離されいるってことは愛海と同じ部屋になることはないかもな。
「君が…星真くん?」
そう女の人突然が話しかけてきた。全く気配を感じなかったな…
「そうですけど…?」
少しびっくりしたが平然を装い警戒気味に返事をした。
「わぁ!おっといけない。私はこのクラスの担任の逢崎 咲江と言います!」
担任の先生か。風貌は若く、眼鏡をかけているいかにも新人教師といった感じだ。なるほど、なかなかな巨乳だな…
「どうかした?」
おっと、視線が胸に行っていたようだ。
「いえ、別に。」
咄嗟に視線を戻し答えたが、先生は不思議そうな顔をしている。
「まぁ、いいや。じゃあ先生が呼んだら入ってきてね!」
ふむ、人の良さそうな先生だな。これならすぐに打ち解けれそうだ。
「はい、わかりました。何を言えばいいんですか?」
出落ちは避けたいので、テンプレを聞いておく。
「うーん…そうね…じゃあ、名前と能力名…ああ、マナー違反ね…じゃあ名前だけでいいわ!」
よし!気が楽そうだ!
「わかりました!」
そう俺が返事すると、先生は教室へ入っていった。
少し声が漏れているな。聞いてみるか。
「みんなもう知ってるかもしれないけど!転入生がいます!」
「「「おおおおおお!」」」
うるさいクラスだが、どうやら楽しそうだ。これなら退屈しないだろう。
「それじゃあ、入ってきて。」
ドアから顔だけを出してそう呼ばれた。
「どうも、天崎 星真と、言います。」
完全にテンプレートだがいいだろう。変なことをして出落ちするほうが100倍は怖い。
「ああ!あんた!」
女の子の声が聞こえた。どこかで見たことがある顔だな…ああ!思い出した!あの時の女の子だ!
「おお、また会ったね!あれからナンパとかにはどう?対策してる?」
うん、セクハラで訴えられたら99%敗訴するなこれ。
「で、できてないわよ…」
少し恥ずかしそうな顔をしている。かわいいな。
「二人は知り合いなの?」
先生がキョトンとして聞いてくる。
「ま、まぁそんなところです」
曖昧にして答えてみたが、みんなの視線が痛い。なぜ一人の女の子とイチャつくだけでここまで睨まれるのだろうか。
「知り合いなら、ちょうどいい!なら神坂さんの隣の席に着いてください!」
俺を殺す気かこの先生は…
「わかりました」
返事しないと話が始まらないので、そんなことを考えながら、テキトーな空返事を返していた。
「あなたが転入生とはね。」
不審な目で見られる。何も怖くないよ!
「俺もいきなりおととい決まったんだよ。そんなことは置いといて、これから隣の席で授業を受けるんだから、名前だけ教えてくれないかい?」
名前を聞き出してみることにした。
「私の名前は神坂 玲紗よろしく。」
ふむ、なかなかにかわいい名前だ。胸の主張も謙遜気味だ。
普通に話してみるとただの女の子という感じがするな。
「あ、教科書ないから見せてくれない?」
これはもう転入ものなら絶対にするだろうよ。
「私も忘れたの。」
ええ…こんな教科書の準備できないヒロイン初めてだな…