現実でない世界
ー死後の世界ー
「ここは…」
目覚めると…いや、もう死んだのだから目覚めるとという表現はおかしいだろうが、目覚めるとだ。
目覚めるとそこは果てのない暗い空間だった。
「おろ?新人さんかい?」
背後に髭の生えたおじいさんが現れた。
「あなたは?」
「私は幻冬げんちゃんとでも呼んでくれ。」
そう言いながら、髭をさわさわしている。
話を聞いてみると、そのおじいさんは昔に寿命が尽きて死んだそうだ。
そして、この空間は死後の者がやってくる最初のところで、ここから霊となるか、成仏するかを選択するらしい。
「げんちゃんはなんでここにいるの?」
「わしはな、成仏もしたくないが、霊になるほどの理由もないんだ。だからこうして死んだ者の案内をしている。」
そういう選択もありなのか。
「ここでは何ができるの?」
「何もできないが、ここの時間の流れは急激に早い。あっちの世界の2ヶ月はこっちの1時間になる。というより、お前さん死んでないんじゃ?」
「?どういうこと?」
「いや、仮死状態なんじゃないか?とな」
「どうしてわかるの?」
「耳を澄ましてみなさい」
言われるがままに耳を澄ますと、ドクンドクンと波打つ音が聞こえる。
「でも、俺、胸を刃物で一突きされたはずなんだけど」
「お前、最狂に変わっておったじゃろ?」
よくわかったな。
「そうだけど?」
「最狂の自己治癒で心臓の働きだけは生かされているみたいじゃな」
そんなことまでできるのかよ。最狂くん最強じゃん。
「えっと…なら、俺の意思次第では生き返れる?」
「そうじゃな」
軽いな
「どうしたら戻れるかな?」
「霊になって自分の体を見つけて中に入り込めば良い」
想像してたのと同じ感じはあるな。
てかずっと髭さわさわするのやめろよ。
「ありがとう、げんちゃん短い時間だったけど楽しかったよ」
そう挨拶だけ済ませると、俺は霊になった。
ー現世ー
さて、霊になったわけだし自分の体探し…
って、もうあるじゃん…はぁ、霊生楽しみたかったのにな。
そんなことを考えつつ、自分の体に被さるようにして同化した。
「…ん?成功したか?」
どうやら自分の体に入れたようだ。
「何寝ぼけたこと言ってんだよ。星真」
神坂が、睨むような目でこっちを見ている。
「神坂か…体調はどうなんだ?」
怪我をしていたはずだ。
「体調?なんの話してるの?ずっとバリバリ元気だけども」
ん?おかしいな…てか、この場所もおかしい。ここどこだよ。
「あれ?瓦礫の下敷きに…そんなことよりここはどこ?」
「瓦礫の下敷き?小説や漫画じゃあるまいしそんなシチュエーションほとんどないでしょ?ここは病院よ」
…おかしい…確かにあの時神坂と河谷、そして佐藤は下敷きになったはずだ。
そして、一番おかしいのは、学園の保健室ではなく、普通の病院にいるということが一番おかしい。
「え?病院?学園の保健室じゃないのか?」
「保健室で瀕死の人間を看病できるわけないでしょ。はい、りんご」
いや、りんごは食べないけど。
世界が違う…?何かおかしいぞ?確かにここは日本だよな?
「俺たちの学校の名前ってなんだっけ…」
「忘れたの?柿世高校でしょ?」
いや、どこだよ。そんな高校の名前聞いたことねぇよ。
「紅花学園は?どうなったんだ?」
「…潰れた…」
どういうことだ?潰れた?金銭的な問題か?
「詳しく聞いていいか?」
いやと言われても聞くつもりではあるが、一応聞く。
「うん…2ヶ月前に文字通り潰れたの…魔法のせいで…でも、その時学園にいなかった生徒会メンバーは全員無事。」
「そうか、無事なのか。でもどうして魔法が学園に使われたんだ?」
「星真…あんたの商店街での交戦が発端になって、魔法能力と超能力の対立のせい…」
え?それって俺が悪いってことか?マジで?
「じゃあ、どうして瓦礫の話を有耶無耶にしようとしたんだ?」
「生徒会で星真には内緒にしておこうって、だから、嘘をついたの。」
「…世界が変わったように見せるために?」
「そう…」
「まさか、死亡者は…」
「教員も含んで生徒会以外全員」
ふざけてやがる。
「…過去に行ければこの運命も変わるか?」
タイムスリップでもなんでもしてこのクソッタレな運命を変えてやる
「え?」
そういう反応になるのが普通だよな。
「過去に戻ってこの運命を変える」
「無理だよ…魔法側のトップには【最強】の能力者がいるんだから…」
「え?どうして魔法側に超能力者がいるんだ?」
「最強は超能力じゃなくて魔法の一種って考えられてるんだ…」
「そうなのか…概要を聞いてもいいか?」
「…相手の能力の奪取…譲渡…全ての魔法能力」
え?いや、それチートやん。最弱でも勝てる気しないんですけど。
でも、概要がわかったわけだ。俺も最強が使えるだろうな。試しに…
「神坂、変化使ってみろ」
「え?わかったけど…あれ?」
奪取は上手くいったみたいだな
「もう一回使ってみろ」
「うん…お、いけた」
譲渡も働いてるか。
「自己強化魔法の言葉?教えてくれ。」
「星真、まさか最強を覚えたんじゃないだろうな。」
勘が鋭いやつだな
「覚えた」
ここは正直に言っておこう
「はぁ…まぁいいや、速度強化でいいか。スペルは{ライソルゾ}だな」
ライソルゾか…ん?全部の能力を覚えれるんだったらスペルも覚えれるんじゃないのか?
「なぁ、まさかとは思うけど俺って一回聞いた魔法全部スペルなしで使えるんじゃないのか?」
「一回やってみろよ」
少し考えてから言ってくる。
「なぁ、50m走しようぜ」
自分の体に変化はないが、多分発動はしているはずだ。確認のためにも50m競争するしかない。
「いいけど、通常のタイム覚えてるのか?」
「8秒」
「おっせぇ」
「うるせぇな」
そんなこんなで病院の中庭へと向かった。
〜中庭〜
「あ!星真さん!」
佐藤の声だ。
「神坂から聞いたぞ、学園が潰されたそうだな」
「もう聞いていましたか…ええ、跡形もなく瓦礫になっていました…」
俺たちは瓦礫と縁があるようだな。
「なぁ、お前も50m走しないか?」
「いいですね!」
いいのかよ。
その直後に河谷も合流し、スタートの合図は河谷にやってもらうことにした。
「よーい…ドン!」
その声とともに三人は走り出した。
まず最初のスタートダッシュを決めたのは佐藤だった。なかなかに早い。
神坂はその次。
かくゆう俺は魔法の使い忘れで、時間をロスしていた。
「よし…これで使用できてるはずだ」
ライソルゾを使用した俺は速かった。
ロスタイムがあったとは言え、自己最高記録の50m走6秒台を叩き出した。
「っしゃああああああ俺の勝ちいいい」
「どうやら、ちゃんと魔法は使えてるみたいだな。」
「ああ、そうだな!」
「どういうことですか?状況が理解できないんですけど…」
佐藤には簡単に説明をし、時間移動ができる能力を教えてもらうことにした。
「この本によるとですね…無いです」
「無い…?」
思わず、聞き返した
「無いです」
早い。
「無いのか」
何回やるんだよ
「はい、無いです」
「じゃあどうしろってんだよ!!」
「星真さん、作るしか無いです。」
「久しぶりの能力クラフトだなー」
「そうですね!とりあえず概要は私が言っていきますので、それを覚えてください。」
「わかった」
「まず、名前は【時間】です。内容は、全ての時を操る能力。過去に戻ったり、未来に行ったり、はたまた、時間を止めたりできる能力です」
「それ、最強より最強じゃね?」
「いえ、最強の能力にはもう一つあります。それは、時間を止めることです」
「過去や未来にはいけないが、最強は時間は止めれると」
「そういうことです」
軽い感じで言ってるけど、その情報がなければ完全敗北だったぞ。
「とにかく、早く行ってこんな結末が迎えられないようにしてくれ」
神坂が言う。
おいおい、ちょっと前まで能力だー!なんて言ってた奴がどうして学園の救世主にも近い役を担わないと行けないんだ。
まぁいい、早く行こう。
そして、学園と生徒たちを救う。それが俺の役目だ。
「それじゃあ、変えてくるよ。運命。」
「はい、これがゲームだったら最終章ですね。」
「悠人も面白いことを言うんだな」
「悠人くん!ゲームじゃないよ!現実だよ!」
「そ、そうですよ!で、でもげ、現実だって考えると…実感がわかないっていうか…」
佐藤、神坂、神山、河谷の順で話をしている。
俺のことは無視か?
「全てを元に戻すまで帰ってくるんじゃねぇぞ」
神坂が釘を刺してくる。
「ああ、頑張ってくるよ」
「じゃあ、行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃい!」
「い、行ってらっしゃい…?」
「じゃあな、また違う運命で会おうな」
そう言うと俺は、あのゴリラに絡まれた時間へと戻った。
〜過去の商店街〜
…本当に戻ってこれたみたいだな。
背後には、学園がそのままの形で残っており、すぐにここは過去だと理解できた。
となると、そろそろゴリラが来るはずだから、絡まれる前に逃げよう。
あいつらは戦いを前提として話を進めていたが、まずその原因を作らないのが最善だ。
「おい、てめぇガン飛ばして逃げようとしてんじゃねぇよ。」
おっと…この絡まれるという記録は変えられないのか。
「え…?はい…?すいません…?」
…?俺はなにも言ってないぞ?
「どうして疑問系なんだ?あ?」
俺でもそこは突っ込むな。
「すいません…生まれた時からの癖で語尾が上に上がってしまうんです…意識しないとどうしようもできなくて…」
…そんなやつもいるのか…
「そんなわけないだろ!?」
ちょっと戸惑ったなこのゴリラ。
「まぁいいわ…おまえどこの生徒だ?」
テンプレ文かよ。
「紅花学園です…」
…!?紅花学園?待て待て待て…俺が絡まれなかったら違うやつが絡まれるのかよ…どっちにしろここ時点での話は変えられないのかよ!
「明日学校ごと潰してやるから待ってろ」
でかいこと言うなー…じゃねぇ、本当にやりかねないんだったな…やばいぞ?どうする?父さんに連絡しておくか?一応学園長だしな。
ピピピピピ…
お掛けになった電話番号は…
は!?どうして!?え!?仮にも学園長だろ!?
ダメだ…やっぱり戦うしかないのか…取り敢えず時間を止めるのがどんな感じなのかを確かめないとな…
確か…名前は…時間だっけか?
発動条件とかも決めてみるか…時間を止めるのは…指ぱっちんなんてどうだ。試しにやってみよう
(パチンッ)
指ぱっちんの音が鳴り響いた後、周りの世界が動きだけを止めたかのような光景になっている。
「あなたも時間系能力が使えるようですね…」
この状況で話しかけてくる…となると…
「おまえが最強の?」
率直に聞いた
「坂谷 洸夜と言います。以後お見知り置きを。」
洸夜…珍しい名前だな…
「お見知り置かなくてもいい、この状況でおまえを倒せば丸く収まる話だろ!」
俺の中でも上手く言ったと思った。
「?あなたは私が悪役だと思ってるのですか?」
…予想外の返答が来たな…
「そうだろ!」
「私は、紅花学園の生徒たちを少々荒っぽいですが、守ろうとしている者ですよ。」
「守ろうとしている…?一体なにから。」
「学園長です。」
…学園長…?こいつが学校を貶めたんだよな…?
「どういうことだ?」
「学園長は学園の能力者で実験をしようとしています。例えばあの狂気の能力者もその一人」
あいつは、どうしていたのかは気になっていたがそう言うことか。
「そして、あなたもその一人です。」
「…俺?」
「あなたの能力は珍しいってレベルじゃないですからね。」
「…俺はどうしたらいいんだ…?」
「そうですね…一緒に学園長を手にかけてくれませんか?」
嘘をついているようには見えない…
クソ、医者の能力が残っていれば…
「ああ、まぁわかった…信じよう…」
そこからの俺たちは早かった。
その時間を止めている間に学園長を見つけ、悪行を暴き手にかけた。
実の父親をだ。手にかけた。
…正直に言おう。人を殺す快感は忘れられなかった。
「あああああああ!ホラゲーしてるわけじゃねぇんだよ!!おいおいこれアドベンチャーゲームだろ!ラスボス倒せねぇってどういうことだ!あ!?」
本物の俺は叫んだ。
本物という表現はおかしいかもしれないか、現実の俺と言うべきか。
「てか、どうしてバトルほとんどねぇの!?魔法ってなんだったの!?ストーリーわけわかんねぇよ!こんなクソゲーやめだ!」
そう言いながら俺はディスクを直し、友達に返却しに行った。
なんとね、この小説はここで終わるわけですね。
本編を書くつもりじゃなかったのに自分の中でヒートアップしちゃったね。恥ずかしいね