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多能能力者

…目が覚めた時、懐かしい臭いが鼻をつんざいた。

ここは保健室のようだ。


「懐かしい香r ゲフッ!」

キザなことを呟こうとした瞬間、腹にグーパンチが飛んできた。


「心配させてんじゃないぞ!」

この声は神坂か。


「いきなり殴んなよ!病人だぞ!」

思ったことがそのまま口から零れ落ちた。


「星真が心配させた分だ!」

筋の通っているような通っていないような反論を返してくる。


「はぁ、まぁいいや。あれから何日経った?」


「四日」

四日か…それは迷惑かけたな。


「大会はどうなったんだ?」

そうだ、大会だ。大会はどうなったんだ、生徒会は勝ったのか!?


「中止になった」

中止になった…か…

俺の頑張りを返してくれ…


「ま、まぁ、そうか。いきなり負け惜しみに刃物で腹貫くような奴がいたんだもんな。」


「…あいつも、【最狂(さいきょう)】の能力者だった。」

どういうことだ?最狂の能力者は散布されている薬で、リセットされるはずじゃなかったのか?


「どうして最狂が学園にいたんだよ…」


「学園には散布された薬が行き届いていないらしい。」

そんなテキトーな散布の仕方なのかよ…


「でも、学園に入る前まではどうしてたんだよ。」

素朴な疑問をぶつける。


「一問一答なわけじゃないからな。マスクをして、薬を吸い込まないようにしていたんらしいよ。」

吸い込んで効果を発揮するタイプの薬なのか。

不完全過ぎるだろ。


「じゃあ、あいつはどうなったんだ?」


「また質問か…あいつは最狂のリセットが行われてから、学園追放だ。」

捕まったわけではないんだな。

まぁ、あいつ自身がやったことじゃないから仕方ないんだろうな。


「ねぇ、星真…具合はどうなの?」

いきなり女の子っぽい話し方に変わったな。


「まぁ、少し痛むぐらいかな。」

いや、めちゃくちゃ痛いんだけどな。

さっきのグーパンのせいで。


「そうか…よかった…」

安心しきって力が抜けたようだ。


「心配してくれてありがとな。」

感謝の気持ちを率直に伝えた。


「ん?心配なんてしてないぞ?」

いや、しろよ!そこはしろよ!


「ん、星真さん。起きてたんですか、おはようございます。」

佐藤が入ってきた。


「おお!星真くん!おはよ!」

相変わらずテンションが高い神山も同じだ。


「ああ、二人ともおはよう」

軽く挨拶を返した。


「あらあら、生徒会の大集合?」

母さんの声だ。


「いえ、まだ一人。」

神坂が答える。


ん?俺と神坂と佐藤と神山…全員揃ってるんじゃないのか?


「あ、あの…」

ドアの隙間から顔を少しだけ出している女の子がいた。


「あ!きたきた!入って入って!」

神坂の表情が明るくなった。


「ってぇ!そいつ水泳部の子じゃねぇか!」

そう、大会の二回戦目で戦った女の子だった。


「うぅ…」

いきなり怒鳴ったせいか、ビクビクしながら涙目になっている。


「おい星真!女の子泣かしやがったな!」

おいおい、待てよ…ツッコミの範囲内だろ今のは。


「わ、わかったよ…ごめん…えっと…」

そういえば名前を知らないな。


由梨(ゆり)です。河谷(かわたに) 由梨(ゆり)。」

河谷 由梨か、ふむ。似合ってる名前だな。


「か、河谷さんね…」

挙動不審になってるな俺。


「はい!河谷です!」

さっきとは一変した表情だな。


「あ、あと!神坂ちゃんや、佐藤くんみたいに呼び捨てでいいですよ!」


「ああ、わかったよ河谷」

そんな話をしていると、生徒会のメンバーの視線が刺さった。


「仲が良くなったようですね。」

「仲がいいのは良いことだよ!」

「星真…セクハラだけはするなよ」

しねぇよ!


「あ、天崎くん…セクハラはしないでね…」

ほら!誤解生んじゃったじゃねぇか!


「しないから!」

そう叫ぶと、みんなの笑い声が聞こえた。


〜1週間後〜


よし!身体も十分動くようになったな!

久しぶりの学校だ。登校しよう。


〜クラス〜


「あれ、先生席替えしたんですか?」

どっからどう見ても席の位置が変わっている。


「わぁ!天崎くん!久しぶり!」

先生がそういう。


「久しぶりですね。それで席は?」

話が逸れないように、もう一度繰り返す。


「ん?ああ、席はね…佐藤君の隣です!」

佐藤?悠人か?


「わかりました。」

そう頷き、席に向かうと案の定俺の知ってる佐藤が鎮座していた。


「どうも、星真さん。席が隣とは…まぁ、知ってましたが。」


「そうだろうな。」

野郎の隣席とはなかなかに不幸だ。


「ん?こっちの席は誰だ?」


「ああ、そっちは神坂さんですよ。」

休んでるのか?いや、生徒会の仕事か。


「じゃあ、前は?」


「前は河谷さんですよ」

河谷までクラスが同じだったのか。


「じゃあ後ろは…まさかとは思うが、神山…」


「ご明察!生徒会メンバーに囲まれています!アホみたいですね!」

これ仕組んだだろ。

アホみたいにもほどがある。


「ん、どうして生徒会女子メンバーだけ休みなんだ?」


「それはですね、男子メンバーは出来ない仕事を…」


「まさか夜の仕事じゃ…」


「そ、そんなわけないじゃないですか!」

顔が赤いぞ佐藤、何考えてるんだ。


「こら!そこ!うるさいよ!」

先生がこっちを指差しながら怒る。


「「すいません…」」

声が揃った、珍しいこともあるもんだな。


(キーンコーンカーンコーン)


学校の全授業が終わった。


「星真さん、これからどうしますか?」

佐藤が荷物をまとめながら聞いてくる。


「少し、依頼を解決してくるつもりだけど。」

何週間か仕事をしていないからな。


「そうですか、同行してもよろしいですか?」


「ああ、こっちからも頼む。」

一人でまたあんなことが起きても困るしな。


「それでは、どんな依頼を受けましょうか?」

デバイスを覗きながら聞いてくる


「うーん…俺の能力は完全に戦闘特化だからなー…頭を使わなくて良い能力事件を頼む」


「それでは…これはどうでしょうか?」

佐藤の持つデバイスには、

[自称【最狂(さいきょう)】能力者の生き残りの確認]と表示されていた。


「確認…?」


「確認ということは、手を出さなくても良いから、そいつが本当に最狂の能力者かどうかを検証してほしいということでしょうね」


「でもそんなのを依頼する人って?」


「外部の人間でしょうね。」


「でもこの依頼ができるのは内部の人間だけじゃなかったか?」


「いえ、星真さんが休んでいる間に一般公開したので、誰でも依頼が飛ばせるようになりました。」

俺がいない間にそういう仕様が変わったんだな。


「へぇ〜…でも、どうやって確認するんだ?」


「そうですね…攻撃すれば最狂を使うんじゃないですかね?」

そんな簡単なものだったっか?これ。


「本当にそれで使うのか?」


「最狂はパッシブ能力です。それに、マスクをしていなければ、確実に違いますよ。」

パッシブならなぜ攻撃という提案をしやがったんだこいつ。


「じゃあ、攻撃はしなくてもわかるな。とりあえず向かおうか」


「はい、ちょうど目撃情報がありました。星真さんは【転置(ワープ)】使えましたよね?」

嫌な予感がするな…


「ああ、使えるが?」


「それでは、二人で飛びましょう。」


「やっぱりそうきたか。じゃ、行くぞ」


〜目撃現場〜


さてと、着いたはいいが…あれ?佐藤は?

確かに俺と一緒に飛ばしたはずなんだが…


(ピロン)


ん?メールか?


「やっぱりその能力は使用者以外の生き物には使えないようですね」

佐藤からのメールだった。


ん?じゃあ、柔道部のやつは俺の勘違いで最初から最狂だったってことか?


早く最狂の能力者がいるか探して帰ろう。


「えっと…特徴に合うやつ…」

10分ぐらい周辺を探したが、それっぽい人は誰もいなかった。


「いないみたいだな。悪戯か?まぁいいか、これで報告したらいいんだよな」

報告をタップすると、記入欄が出てきた。


「えっと…存在しない能力者っと…」

一応短文だが、これでいいだろ。


「…ここ、どこだよ!」

転置で移動したせいで、場所が分からなくなった。


「あ!デバイスのマップあるじゃん!」

そんな一人茶番を繰り広げながら俺は学園へ戻った。


〜学園寮〜


ふぅ、やっと着いたな…疲れた。


「おかえりなさい、星真さん。」

エプロン姿の佐藤が、キッチンでゴソゴソとしていた。


「え?ああ、ただいま」

今日の晩飯は何か聞きたかったが、まぁいずれ出来るだろう。


「おー、帰ってきたか星真ー」


「おかえり!星真くん!


「お、おかえり…なさい…天崎くん…」


「お前ら帰ってたのか。」

神坂、神山、河谷の順で出迎えてきた。


「みなさん、出来ましたよ。」

佐藤が呼びかけてきた。


〜夕食後〜


「なぁ神坂、河谷の寮は同じじゃないよな?」


「当たり前だ、さすがに寮まで変えたりはできないよ」

そうか、よかった。これ以上寮に女子メンバーが増えたらどうしようかと思ってたわ。


「みなさん、早く寝ましょう。」

佐藤は世話係になってるな。


〜次の日〜


「おい!起きろ!お前ら全員起きろって!」


「ん…なんだ?神坂か?焦ってどうした…」

寝ぼけて焦っているようには見えないな。


「ん…なんだ?じゃねぇよ!生徒会室が消えたんだ!」


「んん?それは本当ですか?」

佐藤も疑っているのか。


「当たり前だ!今確認してきたところだ!」


「少し様子を見に行こう。」

提案をしてみる。


「ああ、そのために起こしたんだ!由梨が誰も来ないように見張ってる。」


〜生徒会室〜


…それを見た瞬間言葉を失った。

その生徒会室…いや、生徒会室だった場所は部屋自体がなくなり、ただの瓦礫と化していた。


「どういう…ことですか…?」

佐藤が声を絞り出す。


「わからないんだ。ただ、起きて見に来たらもう消えていた。」

表情を読み取るに嘘はついてなさそうだな。


「この空き地ができる前にここをうろついていた怪しい人影を見たんだけども…」

いきなり謎のおっさんが現れた。


「由梨、この人は?」


「え?ああ、こにょ…この人は警備員さんです!」

噛んだことに笑いそうになったが、無理やり押さえ込んだ。


「どうも、それで怪しい人影とは?」

佐藤が聞く。


「うん、夜に学校を徘徊していたんだけど、生徒会室前に誰かがうろうろしていてね、トイレが奥にあるから生徒さんかな〜と思って無視して進もうと思ったら、物音と同時にこの空き地が出来ていたってことさ。」


ふむ、物音があったってことは転置やらなんやらで消し去ったわけではないんだな。


「そういえば、何か笑い声が聞こえたきがするな…最狂に似た雰囲気の」

ん?最狂?最狂に部屋一つを丸ごと消すような能力はないと思うけど。


「なるほど、最狂…でもあれは身体能力や自然治癒能力の上昇ぐらいしかなかったと思いますが…」


「【多能(たのう)】かもしれないな。」

聞きなれない能力名が神坂の口から飛んできた。


「多能?なんだそれ」


「10万人に1人の割合で発現する超レア物だ。能力内容はその名の通り、2つ以上の能力が発現するというシンプルなものだが、レアすぎて知っているものは限られるんだ。」


俺の能力に随分似てるな。

まぁ俺の場合は相手の能力を覚える。もしくは新しく作る。だけどな。


「最近、最狂に関わる依頼を達成したりしたか?」

しましたとも!ガセだったがね…


「ああ、したよ」


「そいつの可能性が高い。」


「でも現場にはいなかったぞ?」


「探知系能力と最狂、そして生徒会室を消した謎の能力ってところだろうな。」


「なるほど、探知系能力で星真さんが向かった時にはもう勘付かれて、犯人はここに向かう星真さんを尾行していたと。」


それって完全に俺が悪者だよね。

俺がこの依頼をやろうとしなかったら…ってこれ紹介したの佐藤じゃねぇか。


「ま、まぁ、その多能の能力者を洗い出せばなんとかなるんだろ?」


「日本中の多能を探せってことか?」


「病院で鑑定された能力は、名前付きでデータとして送信されるんだろ?」


「た、確かに送信はされているはずだけど、その情報を見れるのは、警察とお医者さんなはずだよ…」

河谷が言う。


「河谷さん、ここの学園長も閲覧を許可されているはずですよ。」

佐藤が補足した。


「学校での事件なんだから、学園長なら事情を説明すれば助けてくれると思うんだけど」


「確かにそれもそうか…星真、たまにはいいこと言うな」

神坂が言った。


「たまには余計だ!」


「ま、まぁ、学園長室へ向かいましょう。」

佐藤が割り込む。

善は急げって言うしな、早く向かうか。


〜学園長室〜


「生徒会一同が何の用だい?」

俗に言うゲ◯ドウポーズをしながら、そう聞いてきた。


「生徒会室が何者かの手によって消滅させられていました」


「消滅?どういうことだ?」


神坂は状況の説明を行った。


「なるほどね、日本の多能能力者を見せて欲しいと…」


「はい、そうです」


「よし、いいだろう。これが多能能力者一覧だ」

学園長はそう言いながら手元のディスプレイをこちら側に見せてきた。


ふーん、多能で発現した能力も書いてあるんだな。


海崎(かいざき) 湯治(とうじ)

多能能力 ; 【狂気(きょうき)壊滅(ブレイク)察知(サーチ)】』


…こいつだろ!


「おい、神坂、佐藤、河谷、この海崎ってやつこいつだろ!」


「…狂気か…身体能力の上昇はなかったのか。」

神坂が画面を見ながら言う。


「狂気と最狂の違いはなんなんだ?」


「狂気は最狂の劣化版です。人格変化しかしないので、ただのサイコパスってところですかね。」

佐藤が説明する。


「ちなみに、壊滅は撃滅の劣化版で、一つの部屋を潰すぐらいの力しか出ません。」


ただのサイコパスか…ただ壊滅ってのは気にした方が良さそうだな。部屋一つを潰すってなかなかに強いぞ。


「撃滅は一体どれくらいの力があるんだ?」


「撃滅の力はみ…」

佐藤が言いかけたところで、急に話を止めた。


「これを話して、星真さんの能力で学習されてしまうと、星真さんの身に危険が及ぶのでやめておきます。」

そんなにも強力なのか。


「あ、あの…犯人もわかったことですし…そ、そろそろ向かいませんか…?」

河谷が言う。


「え?でもこれどうやってこいつのところに行くの?」

神坂の言う通りだ。犯人はわかったが、向かうことはできないぞ。


「それじゃあ、星真さん。出番です。転置を【転移(テレポート)】に進化させましょう!」


「進化ってどういうことだ!?」


「要は、転置を最弱のフォルダから削除して、転移を覚え直すだけですよ」


なるほど、そういうことか…でもこれ、覚えた能力は消せるのか?まぁ、やってみるか。


『能力を削除しました』


どこかで聞いたことのあるような声が、頭に響いた。


削除しましたってことは、消えたんだよな?


「…転置は消せたようだが、俺は転移の詳細を知らない。教えてくれ。」


「いいでしょう。転移は転置の上位互換で、転置とは違い、他人を飛ばすことや、ターゲットを生き物や、ものにすることもできる。って、この本には書いてます。」

佐藤は右手に《これで君も能力マスター!》と書かれている専門書のようなものを持っている。


「なるほどな、多分今転移を学習したと思う。いきなりだが、向かうぞ」

俺はそういうと、佐藤たちに触れ、海崎のもとへと飛んだ。


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