獄中
何かから逃げるかのように言葉を零す。
「僕はこんなもんですよ」
そうだね。と彼は頷いた。僕の話を聞いているのだろうか?
「結局、みんな見た目の美しさに惹かれて蜜を吸いたくなるんですよ」
自惚れるな。と彼は言った。
「わかります。僕もわかってます」
わかってる。
「ダメなんですよねえ、求めてしまう。無い物ほど」
ないものねだりなんてね。と彼は笑った。
「はは。確かに。あるはずがないですもん。」
そう言って僕は用を足しに席を外した。
後ろから聞こえる咳払いには何の意味があるのだろうか。
身体の中にある汚物を出して、手を洗う。
きっと、肌についた汚れは取れても、手についた穢れは取れやしない。
「僕は神に触れた気分です。だから祟られた」
なにも言わずに彼は水を一口飲んだ。
「そう思いませんか。僕はそう感じました」
余韻に浸る、僕は酔っているのだろう。自分にも何者にも。
「溺れてしまいたい」
なにに。と言う。その口。
「人ですね」
たくさん街にいるじゃないか。と、彼。
「そりゃ」
笑える
「一人に溺れたいですよ。嘘でもいい。溺れさせてほしい」
嘲笑。
「こういうと貴方は気分を害するかもしれないですけど。僕はあなたが羨ましい。そんな風に莫迦にみたいにバカに生きたかった」
俺はこれで満足してるよ。この適当さ、君が言うバカさに俺は救われてる。と言って僕から視線を外した。
「本当に」
ああ。と。
「死んだように眠りたい」
夜が街に降りてくる。何を迎えにきてるのだろうか。
面倒になったら死んだらいいさ。それまでは苦しめ。と言う。何様。
「はいはい。精々粋がります。僕は素敵な人間なので」
今にも吐きそうな喉元を堪え。水を一気に口に注ぎ席を立った。
「あなたは僕と一緒に死んでくれないですものね」
僕を騙してくれ。