第三章②
「おかえりなさーい」
家に帰ると、為代がソファに座ってお菓子を食べていた。クッキー、ポテトチップス、チョコレート…
「今日は部活動は無いのか?」
「うん。先週、あんな事件があったからね。寄り道せずに帰れって言われちゃった」
「そうか…そうだ、俺にもそのお菓子、少しだけ分けてもらえるかな?腹が減ってさ」
為代のお菓子を食べる手が止まった。そして立ち上がると部屋中を見渡し、口を開いた。
「別にいいけど…その前に、ちょっとだけ外に出ない?外の空気を吸いたいから」
為代がそんな事を言うのは初めてだ。
俺は鞄を置くと、先に行った彼女の後を追って外に出た。
俺達の家は川沿いに建っており、為代はその柵に座っていた。
「危ないぞ。落ちたらどうするんだ」
「…うん」
小さく頷くと、為代は柵から下りた。彼女にしては珍しく、素直に俺の言う事を聞いた。何かおかしい…
「俺に言いたい事でもあるのか?」
為代に歩み寄った。
「…卓郎の事か?アイツと喧嘩でもしたのか?」
卓郎の名を出した途端、彼女の身体が強張ったのを俺は見逃さなかった。
「…何でもないよ」
「何でもない事あるか。わざわざ人を呼んでおいて」
俺はさらに為代に歩み寄った。その目は潤んでいる。
背後でドアが開く音がした。振り向くと、エプロン姿の俺達の母親が出てくる所だった。
「夕食が出来たよ」
その言葉と同時に、為代は笑顔を浮かべて俺の脇を抜けて、玄関へ駆けて行った。
うまく逃げられちまったな…
そう思いながら俺も、玄関へ歩いて行った。