プロローグ
気が付けば俺はそこにいた。
薄暗くて視界が悪いが間違いない。俺の通う高等学校の廊下だ。しかし、いつもの耳に付くうるささがない。生徒も教師も、誰一人として姿がない。
どうなっているんだ…
そう思った矢先、闇の中から霧の如く、とある人物が姿を現した。反射的に俺は反対の方向へ走り出した。
走る。走る。走る。
途中、黒い物体が道を塞いでいたが、それを三つ程押し倒して走り続けた。
いくつもの教室を経由し、いくつもの階段を上り下りしたせいか、息切れが起き、足も崩れた。場所は、いつも授業を聞いている二年の自分の教室だった。
ここまで来たのだ…奴を完全に巻けたはずだ。
俺はそばにあった机を支えにして立ち上がると、椅子を一つ引き出してそれに座った。
窓から様子を伺ってみたが相変わらず廊下は静寂としており、追ってくる様子はない。
背後に何か気配を感じたと思えば、座っていた椅子がすっ飛んで、俺は達磨落としの様に、その場に尻餅を着いた。
まさか。
頭を掴まれ、そのまま床に叩きつけられる。視界がぼやけたが、その姿ははっきりと目に焼きついた。
紫のコート、帽子、手袋、そして仮面…
今度は首を掴まれ、俺の身体は少しずつ上へと上がって行く。
俺の意識は――
× × × × ×
「ぷはぁ!」
目を覚ますと、顔面に掛かって呼吸を妨げていた毛布を思い切り払いのけた。