第三章⑥
今の話のラストから、真相が語られます。
なんて事したんだ…
帰りの電車の中で、俺は頭を抱えていた。
小田切を殺しただけだったらまだ良かった。あの状況ならまだ弁解の余地はあっただろう。しかし、先ほどの教師の件はどうだ?彼が生きていようと死んでいようと、あの状況をもう一人、あの女の子が見ていたのだ。このままだと俺は警察に…
大川の奴が悪いんだ。元はと言えばあいつが…
電車が目的地に着いて、俺はふらつきながらも歩き出した。
これから一体どうすればいいのだろう?放って置いても警察に捕まるのが落ちだし、だからと言って、大して悪い事もしていないのに自首するのも癪だ。
家に警察が来ていないか心配だったが、どうやらまだの様だ。
鍵を開けた。どうやら父も母も為代も、まだ返ってきていないらしく、家の中は不気味なほど静まり返っている。
二階の自分の部屋に入った。
これからどうしようか…
鞄を床に置くと、机の引き出しからアイス、それの吸引に使うアルミホイル、ストロー、百円ライターを取り出した。
アイス…世間様では覚醒剤と呼ばれている代物だ。一年ほど前にとある事情で味を覚えて以来、手放せなくなっている。もちろん身体に悪い事は分かっている。しかし、意識してやめられる物でもないし、コイツを使って滅多に得られなかった快楽を得られるようになったのもまた事実だ。
アイスをアルミホイルの上に乗せ、吸引する準備をした。小田切からやられて流れていた傷はもう、止まっていた。
後の事は、コイツを吸ってから考えるとしよう…
ストローを口にくわえてライターを点けた瞬間、一階の固定電話が鳴り出した。
誰だろう?父か母か、それとも…
一式を机の上に置いて、止まずに鳴り続ける電話の元へ向かった。
受話器を取った。
「もしもし、薬橋ですが」
「妹の部屋へ行け」
電話の相手はただそれだけを言うと電話を切った。
聞いた事のある声だった様な気がしたがそれより…妹の部屋へ行け…妹の部屋へ行け…まさか。
受話器を放り出すと、一段抜かしで階段を駆け上がって為代の部屋へ向かった。部屋のドアノブを回す時間も惜しかったので、走った勢いを使ってドアを叩き開けた。
「為代!」
ベッドからは上半身がはみ出る形で垂れ下がり、目は大きく見開き、口からは大量の嘔吐物が流れ出していた。
手が嘔吐物で汚れるのも構わず、妹の身体を抱き寄せた。そしてその瞬間、その身に魂が入っていない事を悟った。
「馬鹿な…」
彼女は昨日まで生きていた。ちゃんと会話もした。数日前には一緒に祭りに行った。
「ああ…あああぁ…」
自然と嗚咽が漏れた。自然と涙が流れた。自然と身体が震えた。
俺は生まれて初めて、人の死というものが、これほどまで、遺される者の心を揺さぶるものである事を知った。今までそんな事も知らずに、打ちひしがれた人達の心を笑っていたのだ。大川を失った皆の心や、小田切の心を…
「よぉ真価!何を泣いてんだ?いつものお前らしくないじゃないか!」
振り返ると、村崎卓郎がにやけて立っていた。




