表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の仮面  作者: 馬場悠光
12/16

第三章⑤

「屋上…か」


 そこは二年前にとある女子生徒が【自殺】に使って以来、ずっと鍵で閉ざされていると聞く。もしかしたら屋上へと続く扉の前の、ちょっとしたスペースで話をするのかもしれない。最も、話で済めば良いのだが…


 階段を登り終えると、やはり小田切は扉の前のスペースにいた。彼女はやって来た俺の姿を認めると、冷たい眼差しを向けた。


「おいおい。せっかく来てやったのにそんな目で迎える事はないだろう。お嬢さん」


「章吾を殺したのはあなたよね?」


 その瞳も相俟ってか、俺は階段から落ちそうになった。


「…何の話だ」


 何とか踏ん張って、懸命に取り繕おうとしたが、それも無意味だった。


「私見てたのよ。夏祭りのあの日、あなたが章吾を刺し殺すのを」


 俺が行った後も、小田切は大川を懸命に探していたに違いない。そして、見つけた途端に俺が奴を殺したといった所だろう。


「彼は後悔していたの。村崎君があなたに貸したノートを、半ば強引に奪ってしまった事を。だからあの時あなたに近づいたんだと思う。謝る為に」


「それは違う。俺はアイツに二度も殺されかけたんだ。もしもあの時、俺がアイツを殺さなかたらこっちが…」


「どんな理由があろうとも、あなたが章吾を殺したのは紛れもない事実。どうする?今すぐ警察に自首するのか、それとも行かずに、ここで私に殺されるのか…」


 いつの間にか小田切が、その小さな手に包丁を握っている事に気がついた。


 アイツを殺したのは紛れも無い正当防衛だ。それなのに警察に自首しろだと?こんな不条理な事があってたまるか!


「お断りする」


「決まりね」


 小田切は包丁を突き出して俺に突進してきた。その目には殺意の炎が浮かんでいる。


「うわっ!」


 かろうじて胸を護る事が出来たが、刃は左の肩を掠った。白い夏服を流れ出る血液が赤く染める。


「死になさい!薬橋真価!」


 小田切の包丁による滅茶苦茶な猛攻は続く。その時、俺は初めて小田切の姿が紫の怪人へと変わっているのに気がついた。


 こいつも怪人だったのか?


 包丁の刃が俺の胸を裂いた。マズい…何か策を練らなければ…


 確かこの場所は屋上の前のスペースで、数歩歩いただけですぐに…これだ!


 俺は怪人に飛び掛かると、奴が着用しているコートを引っ掴んで、その身体をすぐ後ろの階段に放り投げた。俺にこんな力が備わっているなんて思いもしなかった。怪人は階段の中央辺りで落ちると、そのまま下の階まで転げ落ちていった。


 すぐに怪人の元へ駆け下りた。奴は情けなくも、身体を【く】の字にして倒れている。


 ちゃんと死んだだろうか?


 頭を軽く足で蹴ってやると、鮮血がサッと流れ出した。身体を手で揺すってみたり、蹴ったりしてみたが、死んでいる事に間違いはなさそうだった。


「きゃあああああぁぁ!」

 

 耳を突き刺す甲高い悲鳴が聞こえてきたと思えば、怪人の姿が消えていた。いや、変わったと言った方が正確だろう。


 小田切が倒れていた。その目にはもう光も闇も宿っていない。ただ、虚ろな目で天井を見つめていた。


 どうなっているんだ…いきなり小田切が怪人に変わったり、怪人が小田切に変わったり…


 俺は辺りを見渡した。小さな銀色の管楽器を持った、小柄な女の子が床に膝を突いて泣いていた。その足元には汚らわしい水溜りができている。


 先ほど悲鳴を上げたのはコイツだろう。生かしてはおけないか…


 俺は傍に落ちていた小田切の包丁を拾うと、女の子に歩み寄った。


「やだ…」


 そう呟くだけで逃げようともしない。恐怖かなのか何なのかは知らないが、その方が返って都合がいい。


 包丁を振り上げた。女の子の顔が歪む。


「待て!」


 けたたましい怒号と足音が背後から聞こえてきた。


 チッ…悲鳴を聞きつけて、誰か来やがったか…


 俺は視界から女の子を外すと、下の階へ続く階段に向かって駆け出した。


「待ちやがれテメェ!」


 駆けつけて来た奴は俺を追い始めた。暫く走り続けたが、その追っ手は諦める様子もなく、俺を追い続ける。


「クソッ!」


 息も乱れてきた。俺は意を決して振り向いた。


 幸い、俺を追っていたのは中年の野球部を顧問している男性教員一人だった。彼は逃げていた俺がいきなり立ち止まり、自分に振り返った事に困惑している様子だったが、すぐに取り直して突進してきた。


「フン…」


 両手が俺の顔に掛かった瞬間、一応持って来た包丁の刃を彼の横腹に突き刺した。


「馬鹿め…」


 包丁を手に持っているのが目に見えなかったのだろうか?俺は倒れて唸っている教師を尻目に、その場を去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ