第三章④
ドン…ドン…ドン…ドン…
隣の部屋からの物音で俺は目が目覚めた。時刻はまだ六時だ。中学生の為代が目を覚ますにはまだ一時間半程早い。
ちょっと様子でも…待てよ、アイツは昔から寝相が悪かった。幼い頃、一緒に寝ていた時も度々俺の布団に侵入してきやがったのだ。今度も寝ぼけて壁を蹴っているだけに違いない。
アイスを吸って時間を潰していたら物音も聞こえなくなっていた。
制服に着替えて、一階へ下りた。
「おはよう。今朝食の準備をするから」
母は掃除機を物置にしまうと、台所へ向かった。母は俺と同じく七時に仕事へ行く。父は昨日から泊り込みで家にいない。
朝食はいつも通り。ご飯と味噌汁、そして漬物を少々。非常にシンプルだが、俺や為代はこの朝食を大変気に入っている。
味噌汁をすすっていたら、母に声を掛けられた。手には【新聞代】と鉛筆で描かれた封筒が持たれている。
「ねぇ、この中に入ってあった五千円を知らない?今日は集金の日なんだけど…」
「…知らないよ」
俺は味噌汁をすすり続けた。
学校に着くと、相変わらずクラスは沈んだ雰囲気だった。まだ大川の死が受け入れられないらしい。
「おはよう、真価」
卓郎がいつも通りに声を掛けてきた。俺は昨日の為代の様子を思い出した。
「お前、あの夏祭りの日に為代と喧嘩でもしたのか?」
卓郎は顔をしかめた。
「そんな訳ないじゃないか。俺と彼女はすごく仲が良いよ。喧嘩なんてする訳ないじゃないか」
「そうか…そうだよな。悪かった」
昨日の為代の態度は、もしかしたら本当に俺の気のせいだったのかもしれない。
「別に良いさ。それより実は昨日、大川の母さんが家に来てな、わざわざ俺のノートを届けに来てくれてね。息子が死んで大変だろうに…」
卓郎はそのノートを取り出すと、俺の机に置いた。
「ほら、大川に取られちまったせいで、まだ写せてないだろ?」
「い…いいのか?せっかく帰ってきたのに…」
「いいよいいよ。俺達友達だろ?写せた時に返せばいいから」
「恩に着るぜ…」
卓郎が行ってしまうと、俺はノートを机の中へ入れた。
クシャ
ノートの先が何かに触れた様な感覚が俺の手に伝わった。何だろうか?俺はいつも帰る時は机の中を空にしてから帰っている。紙切れ一枚入れていない。
「何だ…?」
ノートをまた机の上に置いて、腰をかがめて机の中を見てみると、二つに折りたたまれた紙切れが入っていた。俺は片手を引き出しの中へ突っ込んで、慎重にその紙切れを取り出した。折り目から【薬橋真価】の文字が見えた。どうやら俺宛への手紙であるらしく、少し胸がときめいた。しかし実際開いて中の内容を読んでみると、ときめきとは全く関係のない最悪な内容だった。
【薬端真価様。少し話をしたいので、今日の放課後五時に屋上へ来てください。】
一番前の席に座っている小田切が俺を睨みつけている事ぐらい、感覚で分かった。




