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雪の精霊と魔法の小箱

作者: いちい千冬
掲載日:2013/02/08



 むかしむかし。


 高くとんがった山をいくつも越えた先に、小さな小さな国がありました。


 一年のほとんどが雪に覆われた、とても寒い国です。

 冬には、大人の背丈も軽く越えてしまうほどの雪が積もります。

 高い山の頂から吹き降ろす冷たい風は、人や家畜をあっという間にカチンコチンにしてしまいます。


 しかしあまりの寒さと道の険しさに、ほかの国が攻めてくることもありません。

 この国の人々が平和に暮らせるのは、この寒さのおかげでもありました。


 普通であれば人も住めないような場所に、どうして人が住んで、国ができたのか。

 それはこの国の人々が、雪の精霊に護られていたからです。

 雪の精霊に護ってもらうことで、この国は外ほど寒くはなく、雪は少なく、風も優しかったのです。


 短い夏が終わり、あっという間に秋が過ぎて初雪が降る頃。

 雪の精霊を招く儀式が始まります。

 儀式を行うのは、十五歳の子供たちと決まっていました。

 この国では大人とみなされるのは十六歳。雪の精霊をお招きすることができて、はじめて大人だと認められるのです。


 不思議な模様を書いた小さな木製の小箱に、複雑な模様を刺繍した布と、氷の洞窟で取れる透明な水晶を入れて、やはり細かい模様が書かれたふたをする。

 そして箱を神殿に捧げ、何日かお祈りを捧げると、箱の中から雪の精霊が生まれます。


 失敗した子供は、ほとんどいません。

 しかし大きかったり小さかったり、強かったり弱かったりするので、強くて大きな精霊を呼ぶことができた子供は皆から尊敬され、大人たちも特別に扱いました。


 ところで、今年いちばん強い雪の精霊を呼ぶだろうと期待されていたのは、この国の王子様でした。

 雪の女王様の祝福を受けた証である銀色の髪と薄青の瞳を持つたいそうきれいな王子様は、両親である国王様と王妃様だけでなく、国中の自慢でした。


 言われるまでもなく、王子様はいちばん強い精霊を呼ぶつもりでした。女王様の祝福があるのだから、そうでなければおかしいと思っていました。

 王子様は命令して誰よりも立派な箱を作らせ、誰よりも豪華な布を入れ、そして誰よりも大きくきれいな水晶を入れました。

 これなら雪の女王様だって来てくださるだろう。そう王子様は胸を張りました。


 もうひとり、銀色の髪に薄青の瞳を持つ十五歳の女の子が町に住んでいました。

 しかし、女の子は王子様ほど期待されていませんでした。

 なぜなら女の子は早くに両親をなくしあまり裕福ではなく、王子様のように立派な箱を用意することが出来なかったからです。


 女の子は、とても刺繍が得意でした。

 町では評判で、何年か前からお兄さん、お姉さんたちに儀式に使う刺繍布を頼まれていたくらいです。

 ですからせめて雪の精霊たちが喜んでくれるよう、丁寧に、祈りを込めて布に刺繍をしました。

 そのため、大人たちでもうっとりするような見事な刺繍が出来上がりました。


 女の子の刺繍を見た王子様は、びっくりしました。

 自分のよりもみすぼらしい箱の中から、自分と同じくらいか、それ以上にきれいな刺繍布が出てきたのです。

 箱の持ち主が銀色の髪に薄青の瞳の女の子だと知った王子様は、あせりました。

 そして不安になりました。自分と同じように雪の女王様の祝福を受けた子供なら、自分よりも強い精霊を呼んでしまうかも知れないと思ったのです。


 王子様は、女の子の箱に刺繍布と一緒に入っていた小さな水晶を、捨ててしまいました。

 精霊の心臓とも、核になるとも言われる宝石の代わりに、そばにあった蝋燭の燃え残りと入れ替え、知らんぷりをしていました。


 そうと知らない女の子は、水晶の入っていない箱に向かって毎日お祈りします。


 今年の冬はあまり寒くありませんように。

 雪がたくさん降りませんように。

 強い風が吹きませんように。


 やがて、神殿に集められた箱からいくつもの雪の精霊が生まれました。

 しかし、女の子の箱からは精霊が出てきませんでした。

 女の子は失敗してしまったのだと誰もが思いました。


 女の子は悲しい気持ちになりましたが、それでもお祈りを続けました。


 数日後、女の子の箱から精霊が飛び出しました。

 ただし、それは雪の精霊ではありませんでした。

 蝋燭の燃え残りを入れられたその箱からは、炎の精霊が出てきたのです。


 はじめて見る炎の精霊に、みんな驚きました。

 そして怒り出しました。炎の精霊のせいで、雪の精霊が溶けて消えてしまうのではないかと考えたのです。


 炎の精霊と女の子は神殿を追い出されてしまいました。

 王子様の命令で、女の子は国からも追い出されました。


 寒い寒い、冬の季節です。

 国の外に出て、女の子ひとりくらいすぐに力尽きて死んでしまうだろうと誰もが思いました。かわいそうに思っても、次の王様である王子様には逆らえません。


 ところで、王子様の用意した立派な箱からも、女の子と同じくなかなか精霊が現れませんでした。

 自分は雪の女王様の祝福を受けているのだから、わざわざ寒い場所でお祈りしなくても大丈夫だろう、と最初王子様は神殿にも行きませんでした。

 

 あの女の子の箱からだって精霊が出てきたというのに、王子様の箱は何も変化がありません。

 王子様は、慌てて神殿へ行きました。

 そして、慌ててお祈りをしました。


 それからすぐに、王子様の箱から精霊が出てきました。

 それは、雪の女王様でした。


 雪の女王様はたいそう怒っていました。


 王子様のわがままに。

 雪の精霊への感謝と祈りの気持ちを忘れてしまった雪の国の人々に。

 そして、女王様が祝福した女の子を追い出してしまったことに。


 その年の冬。

 雪の精霊たちは、雪の国の人々を助けてはくれませんでした。

 厳しい寒さの中、人々はじっと我慢するしかなかったのです。



 追い出されたひとりぼっちの女の子は、炎の精霊に助けられました。

 小さな炎の精霊は、ずっと女の子のそばにいました。そのおかげで、女の子は凍えずに山を下ることができたのです。


 山の雪が消えると同時に雪の精霊は消えてしまいますが、炎の精霊はどんなに寒くても、逆にどんなに暑くても、消えませんでした。

 ずっと、女の子のそばにいて、女の子を助けました。


 やがて、女の子はとても暑い国にたどり着きました。


 寒かった雪の国とちがって、大きな太陽がぎらぎらと照りつける国です。

 あまりの暑さに川も湖も干上がり、空気はカラカラに乾いていました。


 暑さに慣れていない女の子は、この国で倒れてしまいました。

 炎の精霊が一生懸命暑さを和らげていましたが、女の子は長い道のりを歩いてきたので、とても疲れていたのです。


 この国の人たちはとても親切でした。

 倒れてしまった女の子を涼しい神殿に連れて行き、残り少ない水と食べ物を彼女にあげました。


 炎の精霊を見た人々は、びっくりしましたが、怒りませんでした。

 女の子と精霊に「遠いところをよく来たね。暑すぎて大変でしょう」と笑いました。


 元気を取り戻した女の子は、なにかお礼ができないだろうかと考えました。

 女の子は炎の精霊に相談しました。

 すると精霊は、どこからか“砂漠の花”と呼ばれる花のようなひだがたくさんついた石を運んできました。

 この石を使って精霊を呼んでみよう、というのです。


 女の子はびっくりしました。

 女の子はもう十六歳になっていました。

 雪の国で決められた年齢を、超えています。

 そうでなくても、女の子は雪の精霊を呼ぶのに失敗していましたから、とても自信がありません。

 女の子はこの国の人々が大好きになっていましたから、また怒られて追い出されたくありませんでした。

 

 迷った女の子は、相談することにしました。

 暑い国の王様は、この国の人々と一緒にお祈りをするような、とても優しく気さくな人でした。

 話を聞いた王様は、心配なら、みんなで儀式をやろうと提案しました。


 王様が国いちばんの職人さんに頼んで、とてもきれいな細工の小箱を用意しました。

 女の子は、白くて清潔な布に、この国の神殿に刻まれた文様を織り交ぜながらきれいで複雑な刺繍をしました。

 そして砂の中から炎の精霊が見つけた“砂漠の花”を、刺繍布と一緒に箱に入れます。


 女の子は、暑い国の人々や王様と一緒に一生懸命お祈りしました。

 一度失敗してしまっているので、なおさら熱心に手を合わせました。


 すると数日後。


 みんなの願いが通じたのか、箱の中から精霊が生まれました。

 勢いよく飛び出してきたのは、砂の精霊です。


 砂の精霊は、砂嵐を起こしました。


 町にたくさん入り込んでいた熱い砂は、風でほとんど吹き飛んでしまいました。

 また、空に上った砂はぎらぎらとまぶしい太陽を隠し、焼けるようだった地面を冷ましました。

 さらに風は、海から雨雲を連れてきました。

 暑い国に久しぶりの雨が降ります。


 数日後に砂嵐が消えたときには、すっかり緑があふれる豊かな国に変わっていました。

  

 みんな、とても喜びました。

 王様は女の子にご褒美をあげようと言いましたが、女の子は断りました。

 もともと助けてもらったお礼のつもりだったのです。


 女の子は、王様の養女になりました。

 そして大人になった彼女は優しい男の人と結婚し、新しい家族を作ったのです。


 ずっと助けてくれた小さな炎の精霊は、彼女がひとりぼっちでなくなるのを見届けると、ふと、消えてしまいました。


 まるでろうそくの炎が燃え尽きたように。

 それはそれは満足そうに。


 女の子は消えてしまった炎の精霊に、言いました。


 助けてくれてありがとう。

 一緒にいてくれてありがとう。


 あなたがいてくれたから、ちっとも寂しくなんかなかったよ。





 おしまい。







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― 新着の感想 ―
[一言] とある作家さんのブックマークから二番目の王子にとんで読ませてもらい、そこからこの話にきました。偶然見つけた作品だけど出会えてよかったです。素敵な作品をありがとうございました。
[一言] はじめまして。 新着の短編小説のページから来て読ませていただきましたが、とても面白いお話だと感じました。 そして読んだあとにほんわかできて、素敵だなって思います。
2013/02/08 20:44 退会済み
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