表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の舞  作者:
6/38

5.月夜の泉

「‥‥あ」


 自己嫌悪しながら歩いていたら、気付いたら目的地に着いていた。


 地元の人間も知らない場所だから、当然道なき道を来たはずなのに、覚えがないと言いながらルセロのどこかは知っていたのだろうか、自分が生まれた場所を。母親はこのほとりでルセロを産み落とした。その傍らに父親があったのかは知らない。


 森が切れて、小さな湧水が目に映る。


 そして、それに足をひたす小さな後姿も。


「‥‥え」


 半月を少し過ぎた月明かりはそれほど明るくないはずなのに、その姿は輝いて見えた。儚い、小さな背中だと思った。


 それが少女だとはすぐに分かった。足をひたしているだけだから当然靴しか脱いでいないのだが、どこか疚しい気持ちになって、目を逸らす。


 だが、ここは今や王領なのではないだろうかと思い、襲撃に来た自分たちが認可されているというわけではないが誰何すべきだと気付き、目を戻したところが、


「‥‥あれ?」


靴だけ残して誰もいなかった。一瞬混乱して、それが致命的な隙となった。頭上の風切音に身体が反応したのは僥倖に過ぎない。


「‥‥っ!」


 咄嗟に転がり、迫って来たものを必死で避ける。それは抜身の剣で、反応できていなければ両断されていたのは首か、腕か脚か。まったく容赦のない一撃だった。


「‥‥へぇ。いい反応」


 嘲るように言った彼女は、裸足で大地を踏みしめて、抜身の剣は脱力された右手に握られていた。防具の類は身に着けていない、いや、そんなことよりも、


「‥‥剣姫っ?!」


その不敵な笑顔を目にした途端、血が沸騰したかと思った。意識するよりも早く自然に利き腕が護身の短剣を握り、肉薄していた。


「お‥‥っと。この顔を知っているのか」


 そこにいたのは剣姫。引っ張り出せれば勝ちだと思っていたが、このような場所で出会ったところで勝ちも負けもない。むしろ力量から言って自分が死んで葬られて終わりだ。だがそんなことはどうでもよかった。


「知っているさ!

 お前があの魔女などを守るせいで‥‥!」


 本心はただ嫉妬しているだけなのに、ルセロの口は言い慣れたお題目を披露する。だが少なくとも憎いのだという感情だけは本物だ、その熱でせめて一太刀加えようという勢いは、しかし、一言で止められた。


「‥‥あぁ。まぁ、否定はしないけど、あたし、ただの影武者だから」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ