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剣の舞  作者:
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3.森で

 順調に行軍を続けたが、森が途切れ離宮が目に入るところでルセロは右腕を振って止めた。特に何事もなくここまできたし、特に何事かが起こるような空気でもなかったから若干怪訝そうではあったが、彼らは素直に指示に従った。


「‥‥静かすぎる」


 ぽつりと呟く。誰に聞かせるつもりはないが、聞かれてもいいとは思った。


「‥‥ルセロ?」


「マルテ。魔女は本当にいるんだな?」


 不思議そうに先行していたマルテが戻るのに、ルセロはそう声をかけた。


「‥‥いるはずだが」


「あの魔女が、宴の一つも開かないなんておかしくはないか?」


 普通の感覚であれば、半日ばかりを馬車に揺られてようやく辿り着いたその日に宴を開くようなことはないだろうが、そこは魔女とあだ名される所以の一つといえるか。王妹殿下は派手好みだ。


 この国が豊かであることは、国土の恵みももちろんあるが、国民性として質素倹約であることも大きい。この国の民は無駄を嫌う。王侯貴族も体裁くらいは整えるものの華美なものよりは実用的なものを選ぶ。その結果、蓄える余裕があるものだから少しの不作ではびくともしない。溜め込むだけ溜め込んで活用しない、などということもなく、そういう意味で実にバランス感覚に優れた国民性と言えた。


 その中にあって、前王陛下と王妹殿下は異質と言える。前王は吝嗇が強く溜め込んだ財をひけらかすことは少なかったが、王妹殿下は溜め込むよりは放出することを望む。血のにじむような訓練と、血の凍るような戦争とを民間人に強いる癖に、自分は王宮で贅沢三昧だ、これで恨みを買うと思っていないらしいところが愚かでいっそ笑える。


「‥‥確かに、あの派手な馬車が離宮に入るところは見たが‥‥」


 妙だな、とマルテも呟いた。




 事実確認のためと、襲撃には少し時間が早いためにその場で一旦待機することとなった。半月を少し過ぎたくらいの月が南の高いところにある。あれが西に沈むくらいが頃合いだろう。


 そう決めたルセロは、なるべく体を休めるように皆に告げ、自分は大剣を無造作に転がして森へ分け入った。もちろん護身に短剣くらいは帯びている。ただ、これから向かう先にはあまり武器をひけらかして向かいたくない、と感傷があった。


 ルセロの母親は職業軍人だ。そして父親は、この離宮が建てられる際に付近から集められた技術者だと聞いたことがある。建設の指揮を執りつつ逃亡防止のために見回っていた母親としがない技師の父親とにどんなやりとりがあって子を為す流れになったのかは知らない。ルセロを教会に預けたのは母親だし、何度となく顔を見せたが、父親の顔をルセロは覚えていない。


 このあたりは父親の故郷だ。今も住んでいるのかもしれない。記憶には全く残っていないが、産まれてしばらくはルセロもこのあたりにいたらしく、不意に、母親が言っていた泉のことを思い出しただけだった。

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