エピローグ
あれは革命ではなかった、と誰もが言う。
10年前の、前王の妹を廃した戦いのことだ。
それを為したのは無名の民間人で、その傍らには王家の姫によく似た姿があったらしいが詳しいことは誰も語らない。赤髪が見事なその民間人は、王妹の首を塔から投げ落とした後、どこかへ消えた。
王家に成り代わろうという人間が現れなかったのだから、あれは革命ではなかった。
だが、確かに王国の危機を呼び起こしたと言えばそれも正しい。
王国の護りの要であった、戦姫・剣姫と呼ばれる2人の姫君はその戦いで命を落とした。王妹派であった多くの軍人も使い物にならなくなった。それを他国が見過ごすはずもなく、それから数年はいつ蹂躙されてもおかしくはなかった。
王国が生き残ったのは奇跡だ、と誰もが言う。
流石に多少国土は減じたが、それでも10年、国王の代替わりを経て王家は続いている。
その立役者となったのは、王家は否定するが、国境の悪魔だろう。
前王の妹が倒れ、それと前後して隣国の侵略が始まった頃、その国境には一組の悪魔が現れた。子供のような体躯で見合わぬ剣を振り回し、国土に入り込んだ隣国の兵を殺して回る。そんな悪魔が現れたのだ。
あるいはそれは、国を憂いた双剣の姫君の魂が、死してなお国を護ろうとしているのだとまことしやかに言う人間もいるが、流石に事実ではないだろう。たとえ一組の片割れが、剣姫と呼ばれた娘にそっくりだったとしても。
自国の民が国境に行っても、そこに悪魔は現れない。かつて赤髪と共に起った青年が訪ねて行っても、そこにあるのはただの森だったそうだ。
運よく生き残った他国の侵略者が伝えることしか誰も知らない。
その小国には、一組の悪魔がいるという。
「悪魔だって。笑ってしまうね」
国の片隅で彼女は心底楽しそうに笑った。




