36.対峙する
落とし戸を3つ押し開けた。
その間には等分に部屋と階段とがあり、逆に言えば塔の内部にはそれらしかなかった。4つの部屋と、それをつなぐのは狭苦しい階段と落とし戸。例外なく上から荷物が置かれていて、それなりに侵入者を防ごうとしている意図は読み取れる。が、サリアナ程でないにせよルセロだってそこそこの技量を持つのだ、何もしてこない荷物くらい跳ね除けるのは難しくなかった。
そうして3つ目の落とし戸を押し開けたルセロを迎えたのは、色彩の洪水だった。
「誰ぞ」
それと尖った声。
「‥‥王妹殿下?」
「偉大なる前王に連なる王女殿下、であろう?」
聞いた話が正しければ40を数える癖に、図々しいことだ。大体王女とは王の娘を指す言葉で、王妹であるところの魔女をそう呼ぶのは、現王を認めていないということに他ならないだろうに。
まぁ、実際、王妹自身は己の兄たる現王を認めてはいないのだろうけれど。
「ふぅん、まぁ何でもいいんだけど。オウジョデンカ」
酷く投げやりに呼びかけて、ルセロは初めて大剣を鞘から抜いた。
「誰ぞこの礼儀知らずの小童をつまみ出せ」
「誰も来ないさ。サリアナが全部引き摺り出したんだから」
手にした華美な扇を振り回すその女は、それなりに美しかった。その美しさの8割程度は身に着けたものが醸し出すものだったが。
印象としてはひたすらに尖っていた。サリアナのように鋭いわけでもなく、ただ尖っていた。2割程度は本物の美しさだが、尖った印象がその分は打ち消していて、結局華美な装飾品が喚いているようにしか感じられない。そのような印象を受けた。
「わたくしは偉大なる前王の遺志を継ぐ者だ」
抜身の大剣を前に、怯えて見せないのは流石だと言えた。だが、そんなことはルセロには関係がなかった。ことさらにもったいぶる気もなくて、あっさりと剣を振りかぶる。
「偉大なる前王、ね」
その王がしたことは、ただ財を溜め込むことだけだった。少なくともルセロは幼い頃に崩御したその王を讃える声を聞いたことはない。戦姫と双剣の姫君とを見出したのは前王だが、それもただの身勝手だ。
「生憎とあんたの味方はいないよ。‥‥もともといないんだったか。あんたの手下はみんなサリアナが剥がしてくれたよ」
華美な部屋の片隅に震える侍女の姿は目にしていたが、そんなものは数にも入らない。
「敵ばっか作るからこうなるんだろうな」
あっさりとルセロは剣を振った。




