34.覚悟の在り処
西の棟、は塔と言ったほうが正しそうな外観をしていた。
「さて、ばばぁはどうしてるんだろうね」
本宮とでも言うのだろうか、目抜き通りからまっすぐ正面にあったあの建物から、回廊でつながってぽつりと建つ。本宮よりも少し背の低い、それは塔に見えた。
隣に立つ樹を見下ろす高さの煉瓦造りの塔。
こちらから見る限り、出入り口はこちらを向いた側の開口部のみに見える。細く高い塔であるから、おそらくそれほど隙間を空けることもできず、だから抜け道などないと言ったサリアナの言葉は正しいのだろうな、とルセロは思った。
「‥‥流石にここには護衛がいる、か。となると魔女は確かにあの中か」
「多分ね。あのばばぁにゃ国王を護ろうとか、そーいう発想なんてないし」
国王とは国の主であるし、そうでなくても己の兄であるはずだが。ある意味それは、魔女と呼ばれるに相応しい感覚かもしれない。
「どうするん‥‥」
だ、と最後まで言う前に、サリアナが飛び出した。まっすぐに、塔目がけて駆け出す彼女の目には、まるで、敵など映っていないかのように。
「――あたしだ!」
笑い出しそうに彼女は怒鳴った。いつの間にかその手には抜身の剣、逆手には短剣まで構えて、というかアレはルセロの護身用だ。知らないうちに掏り取られていたらしい。呆気にとられた。
「な、剣姫?!」
「そうさあたしだ!!」
駆けたその勢いで、彼女は5人の騎士の元へ突っ込んだ。
舞うのは血しぶき。
「――サリアナ、」
「さァ、あたしを殺すのは誰だ?!」
ルセロの声は届かなかった。届いたのかもしれないが返事はなかった。
ただ、彼女の目が一瞬、物言いたげにルセロの視線を塔へと導いた。それで、分かった。
護衛の近衛は全て、騒がしく登場したサリアナに注目している。今また、ほら、塔から応援が駆け出した。舞い踊るように剣を操る彼女に向かっていく、ひとり残らず。
だから、西の棟に侵入するなら今だ。
「戦姫は死ぬ!剣姫も死ぬさ!だから伯母上、あんたも道連れだ!!」
戦場の鬼に相応しく、楽しそうに彼女は囀った。あぁ、やはりそうだったのだとルセロは思った。
「全部覚悟してたんだな、」
反乱が興れば、戦姫も剣姫にも生命はない。それを分かっていて、彼女と彼女の2人の姉は事を起こした。
「双剣は、2人の剣姫の意味だったんだ」
あぁ、途方もなく哀しい。
彼女たちの生き方は、たとえようもなく哀れだ。




