32.影武者ということ
気付いたことがあった。
ルセロはこれまで、双剣の姫君の名前に興味はなかった。さっき初めて顔を合わせて、名を知って、話す言葉を聞いて、気付いたことがあった。
だが、それをサリアナに告げるべきか、悩んでいた。
「‥‥それにしても。本当に影武者だったんだな」
何から告げるべきか、何を言うべきか、悩んだ結果そんなことを呟いていた。
「えー?」
「サリアナは、本当に剣姫の影武者だったんだな。よく似ていた」
そっくりだった。それは声までも。
ルセロの斜め一歩前を歩く彼女の表情は見えない。
「似てなきゃ影武者になんないっしょ」
軽やかなその声からは、含みは読み取れなかった。
「そりゃそうだけど。
でも実際、戦場に出ると別人のようだとか言われてるんだし、背格好とかが大体似てればいいとこじゃないかと思ってたんだ」
「そんなもん?」
「普通、そんな程度だと思う。ていうか、多分、そこまで似ている他人なんて見つかるとも思えないし」
回廊に人影は見えない。向かう先を間違えているのではないかと不安になったが、それから、近衛はほとんど魔女の私兵扱いだと吐き捨てた彼女の言葉を思い出した。正しい道のりでも違っても、魔女の傍近くにしか近衛はいないのだろう。それ以外の王族はどうしているのだろうか。
「まぁ、普通はそうかもね。
それでもあたしは見出された」
吐き捨てるようにサリアナは言った。
「‥‥なぁ」
「何?」
剣姫の影武者の彼女。戦場に出ないあの姫君の代わりに、幼い頃から戦場を駆けさせられた。彼女の強さは異常だが、強くなければ生き残れなかった、そんな場所で彼女は育った。
「サリアナ、あんた、つらくないの」
戦場では彼女は剣姫。誰ひとり彼女の名を呼ばないだろう。その生き方を後悔することはないのだろうか。
「‥‥つらがってどうすんの」
一瞬足を止めて振り返った、その瞳は強くルセロを射抜いた。




