26.剣姫
圧倒的だった。
サリアナは圧倒的に強く、そしてその戦いは美しかった。
騎馬上の敵にどのように相対するのだろうな、と半ば他人事のように思いながらルセロはその背中を追っていた。と、その視界の中でサリアナは強く地面を蹴り、跳躍し、
「‥‥羽根でも生えてんのか」
高く高く跳躍し――と言っても実際は人間の身長の倍程度だったがとても高く感じられた――その分滑空時間は長く、そして彼女は手に持った抜身の剣を振るった。
血の花が咲く。
だんっ、と再び地面を捕らえた彼女の足はそこで止まらず、再び強く地面を蹴って次に向かったのは馬上の敵の眼前だった。
「馬もらうね」
口づけでもするほど近くで囁いて、そのまま彼を蹴り落とし、手綱を奪った。当然馬は暴れるが、それを難なく抑えて見せ、それでいてその最中取り落された彼は蹴り飛ばす。停滞はなく、容赦もなかった。
ざ、とサリアナが奪った馬の周りの空間が空いた。それは怯えるようでもあり、あるいはまた、英雄を讃えるようでもあった。彼女の口の端がにぃと上がる。
「‥‥あたしを殺しに来たんだろ?」
呼応するように彼女に向かう者、あるいはまた遠くから彼女を狙う者。サリアナの一挙手一投足、あるいは声が、戦場を操っていく。
「あたしは剣姫!憂国の徒の志に惹かれ王国を打倒しに参った!!」
彼女の声は甲高くはないが、不思議と戦場に響き渡った。
「‥‥憂国の徒、とかちゃんと言えるんじゃないか」
ルセロは戦場の片隅で、ぼそりと呟いた。多分カンペでもあるのだろう。
彼女の背中を追いたかったが、それははるかな高みにあり、追いすがることもできずにただ見守った。そんな自分を殴りたかった。
横合いから斬りかかってくる手合いは鞘のままの大剣で横殴りにする。吹き飛ばされた相手が馬に轢かれてもそれは知らない。ルセロはいまだに誰ひとり斬り殺していない、彼女の周りが血に染まるのとは裏腹に。
「ルセロ!」
サリアナに鋭く呼ばわれて、腐っている暇などなかった。
「道を開けろ!あたしたちは魔女に用がある!!」
怒号を上げる彼女が何かを仕掛けるのが分かったために、慌てて近くの馬を奪った。手綱を奪われまいとしがみつく相手の鼻面を強打して、落馬したその安否を気にする暇もなく、
「邪魔だ!」
サリアナが怒鳴って突っ込んだ。何かを考える暇もあればこそ、ルセロはまたその背を必死で追いかけた。




