21.知りたいと願うこと
「それもそうだ」
「だろ。
‥‥そういえば、あんた、戦姫と、直に話したことがあるんだな」
調子に乗ったのかもしれない、と思ったのは、彼女の表情が消えたときだった。だがそれは一瞬のことで、次には彼女はへらりと頷いた。
「まーそりゃ‥‥戦術を練るのは戦姫で、あたしはその策を授けられる身だしね」
「剣姫の影武者なのに?」
「影武者だからこそ、だろ」
ルセロは想像してみた。だがよく分からなくなった。
「‥‥あんたって、いつもどこで入れ替わってんだ?」
何となく、王宮を出るところくらいかと思っていた。だが、戦姫から直に策を授けられるというのであれば、それは王宮の中、姫君の前にまでも影武者の彼女が入り込んでいるということだ。それはどうなのだろう。主に警備とかの問題として。
だが彼女が嫌そうな顔をして、
「鎧を着こんだらあたしだろーよ。っていうか、何でそんなこと説明しなきゃならんのだ」
そう言い捨てて立ち去ろうとしたから、それ以上その問題について考えるのは止めることにした。
その代りに、ルセロはその背中に問いかけを投げた。
「ひとつだけ教えてくれないか」
「‥‥何」
背中が警戒しているのが分かる。だから、なるべく軽く聞こえるようにルセロはその問いを口にした。
「あんたの名前ってなんていうの」
そう。それをずっと訊きたかった。
「‥‥は?」
「名前。あんたの。ちなみに俺はルセロってんだけど」
剣姫、と彼女はこれまで呼ばれてきたし、これからもやはりそう呼ばれていく。そうでない彼女を知りたかった。その理由なんて知らない――知ったら重荷になる。呆気にとられた彼女が振り返ってルセロの瞳を見ている。その奥に何があるのか見透かすように、けれど、見せない。ただ呑気なだけのふりをして、答えを待った。
しばらくぽかんとしていたけれど、やがて彼女の表情が緩んで、
「サリアナ」
その音だけ落として去って行った。その背中を、ひどく満足にルセロは見送った。




