18.命を背負うこと
「162人だ」
正直ルセロは、自分が今率いていることになっている人間の数すらよく知らなかったが、そこはそれ、有能な幼馴染はきちんと把握したらしい。
「そこに俺らは入ってんの?」
元々が数十名の集まりだから、ざっと5倍程度に膨れ上がっていたらしい。いつの間に、と思ったが、離宮の護りが大分こちらについたし、あるいは王族の持ち物を燃やすというこれ以上ない宣戦布告が、諦め癖のついた民衆にも火をつけたということだった。
「いや、お前と彼女は入っていない」
「なら俺は、164人分の命を背負ったというわけだ」
馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。そんな他人の命など預けられるだけの、自分に器があるなどとは思えなかった。だが動き出してしまった流れは止められない。できることは、できるだけの命を無事に返すことだけだ。
「‥‥何、あんた、あたしまで背負うつもりなわけ」
「一緒に来るってことはそーいうことだろ」
多分彼女のほうがルセロよりも強いのは確かだが、そういう問題ではなかった。
「マルテ、話がしたい‥‥彼女も含めて」
気に食わないのだろう、本物の殺意すら感じるが、睨む彼女を無視してそう声をかければ、有能な幼馴染は頷いて先導するように動いた。確かにこの軍勢は、ルセロが背負うべき人間たちの集まりだが、だからと言って一丸となっていられるかと言えば流石にそこまで自惚れていない。誰にも聞かれない場所が必要だった。
「何をしているんだルセロ。‥‥影武者の、貴女も、こちらへ」
動かない2人を見て呆れたようにマルテが言った。その顔を見返しながらルセロは思う。
百人を超える若者たちの中で、背中を預けられるのなんて、マルテとそれから彼女くらいだ。もっとも彼女に対しては、それは単に正面切っても背を向けても、どちらでも敵対されれば命はないというあきらめが言わせるだけのことではあるが。
マルテが2人を連れて来たのは、まだ炎の燻る離宮から、それほど離れていない小さな広場だった。
「‥‥鍛錬所?」
なるほど、雅やかな離宮にはそぐわないが、なければないで困る場所だ。こじんまりとはしているが、多少離れているため音も届かない、だが駆け付けられる場所。そこを活用していた人間がどれほどいるかは知らないが。
確かに開けた場所のど真ん中で声を潜めれば、音を拾う範囲では姿を見せるしかなく、隠れられる場所までは声は届かない。